概略

寒冷療法と温熱療法の腰痛への有効性について、専門家の間でも意見は分かれます。一般的には、寒冷療法は急性痛の場合に、冷温熱療法は慢性痛の場合に効果的と言われています。いずれにしろ、どちらの治療法でも痛みが悪化する場合は、医師の診察を受けることをお勧めします。


腰痛の症状を緩和するためには温めるべき?冷やすべき? 序論

目次

はじめに

腰痛になったとき、友人や家族からいろいろなアドバイスを受けたことでしょう。氷で冷やすように言う人もいれば、熱を加えるように言う人もいます。腰痛は温めるべきか、それとも冷やすべきか?「どちらが良いか?」という質問に答えるのは、おそらく、相談する相手によって異なります。
この判断に迷う方も多いので今回は腰痛の症状を緩和させるたに腰を温めるべきか冷やすべきか説明したいと思います。


結論

寒冷療法と温熱療法の腰痛への有効性を評価する研究が限られていますがその効果は否定できません。腰痛の場合、温めるか冷やすか、専門家の間で一致した意見はありません。腰痛の原因となっている怪我や病気の発症時期により判断することは多いです。一般的に、怪我や病気が起こってすぐの場合は「冷やす」、しばらく経過している場合は「温める」ようにすることが効果的だと思われます。


寒冷療法と温熱療法の働き

これらの治療は、体内で働く自然治癒力(生命の回復のシステム)に基づいていると考えられます。 急性損傷の後、体の緊急修復細胞が損傷された組織の所に殺到し、必要に応じて出血を止め、感染から保護しながら、ダメージを受けたものに代わる細胞の再成長が開始します。

冷やすことが腰痛に効く場合

炎症や腫れは、怪我に対する体の自然な反応ですが急性期が過ぎても治まらないとかえって痛みを増大させることがあります。このような場合、冷やすことで炎症反応を鈍らせ、腫れを抑え、怪我をした部位の周りの神経を落ち着かせることが出来ると思われます。

温熱が腰痛に有効な場合

腫れが引いたら、温熱療法に切り替えるとより効果的に痛みを抑えることが可能になると思われます。温熱療法の生理学的効果には、一時的な痛みの緩和、血流と代謝の増加、結合組織の弾力性の向上などがあります。 温熱の適用は、脊椎周辺の軟組織の伸張を助け、硬さを減少させます。柔軟性は、健康な腰椎を維持するために重要な状態です。そのため、運動後に腰痛が出る場合には、運動前に温熱療法を行い、運動後に氷で冷やすことを検討すると勧められます。温熱で筋肉の硬直を和らげ、弾力性を高め、運動後に冷やすことで炎症を抑えます。いずれにせよ、温熱や冷熱の適用による痛みの緩和は一時的なものである可能性が高く、長期的な治癒を意図したものではないことを念頭に置いておく必要があります。

慢性腰痛には温熱療法と寒冷療法のどちらが有効か?

神経の刺激による慢性的な腰痛の場合、温熱療法または寒冷療法のどちらを適用したら腰痛が緩和されるかどうかは、神経の刺激の原因によって異なります。筋肉や腱の損傷が原因で痛みが生じている場合は、安静を保ち、最初に筋肉の炎症を引き起こした姿勢や活動を避けるとともに、冷却療法が効果的な場合があります。このような場合、冷やすことで筋肉が正常な状態に戻り、長期的な緩和をもたらすことができます。また、椎間板ヘルニア、脊椎管の狭窄、骨の棘などが原因で腰痛が生じられている場合、温熱療法や冷却療法は症状の緩和という点では限られた効果しか得られないので根本的治療が必要です。


まとめ

腰痛には急性腰痛と慢性腰痛が有ります。それぞれの症状や対処法も異なります。温めたり冷やしたりすると症状が改善される場合が多いのですが、悪化されることもありますので気を付けましょう。改善されない場合、或は悪化された場合、すぐに医師による指示を受けて、より適切な方法を選択するようにお勧めします。

腰痛の症状を緩和するためには温めるべき?冷やすべき? 結論

参考文献参照元

①Effect of thermal therapy and exercises on acute low back pain: a protocol for a randomized controlled trial - 2020 - Claudia Côté-Picard, Jean Tittley, Catherine Mailloux, Kadija Perreault, Catherine Mercier, Clermont E Dionne, Jean-Sébastien Roy, Hugo Massé-Alarie - BMC Musculoskelet Disord. (Article number: 814 (2020))
②The physiologic basis and clinical applications of cryotherapy and thermotherapy for the pain practitioner - 2004 - Scott F Nadler, Kurt Weingand, Roger J Kruse - Pain Physician(Vol 7 Issue 3)
③Heat or cold packs for neck and back strain: a randomized controlled trial of efficacy - 2010- Gregory Garra, Adam J Singer, Richard Leno, Breena R Taira, Neeraj Gupta, Beena Mathaikutty, Henry J Thode - A GLOBAL JOURNAL OF EMERGENCY CARE (Academic Emergency Medicine Volume17, Issue5)
④Mechanisms and efficacy of heat and cold therapies for musculoskeletal injury - 2015 - Gerard A Malanga, Ning Yan, Postgraduate Medicine (Volume 127, 2015 - Issue 1)

参考文献のリンク

Effect of thermal therapy and exercises on acute low back pain: a protocol for a randomized controlled trial
The physiologic basis and clinical applications of cryotherapy and thermotherapy for the pain practitioner
Heat or cold packs for neck and back strain: a randomized controlled trial of efficacy
Mechanisms and efficacy of heat and cold therapies for musculoskeletal injury

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任