概略

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、慢性腰痛にはあまり効果的ではないことが示唆されており、抗炎症薬の使用は却って慢性的な痛みのリスクを高める可能性もあります。急性腰痛に対して短期間の使用であれば害も少なく改善効果が見込めますが、長期間使用は腰痛が頻繁に再発する可能性があります。


抗炎症薬は急性腰痛を慢性化させるリスクあり? 序論

目次

はじめに

腰痛治療の薬事療法でよく処方される治療薬としてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)があります。この抗炎症薬について「慢性腰痛を引き起こすことがある」と聞くと、大抵の人は驚いてしまうことでしょう。では、なぜそのようなリスクがあるにも関わらず、処方されているのでしょうか?
今回は、矛盾を孕んでいるこの主張抗炎症薬は急性腰痛を慢性化させるリスクに関してお話ししたいと思います。


結論

抗炎症薬は、腰痛の初期症状に対して効果的に作用するので処方されてきました。しかし、急性期から慢性期に移行した腰痛に対しては十分な効果が得られません。それどころか、返って慢性疼痛を助長する可能性すらあります。実際にギックリ腰を慢性的な症状に変えてしまうことがあるそうです。ですので、最近は薬物治療による様々なリスクを鑑みて、まずは非薬物療法から試してみることが一般的になっています。


抗炎症薬の情勢

日本

抗炎症薬には強い鎮痛作用がりますが、様々な副作用があるので、日本でも高齢者に使う際に気を付けないといけないことになっています。腰痛初期の炎症を効果的に抑制する点は確認されていますが、慢性化しつつある痛みに対して抗炎症薬は初期ほどの効果は見込めないと考えられています。したがって、最近は抗炎症薬の長期投与をできるだけ避けるという時流になっています。

海外

腰痛の初期治療では、鎮痛剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、筋弛緩剤などの薬物療法が標準的な治療法として行われていました。しかし、最新の研究を基に専門医学会は方針転換し、すでに腰痛持ちの人は運動、物理療法、温熱、マッサージなどの非薬物療法から始めるべきだとガイドラインを改めました。非薬物療法は、痛みを抑える薬と同等の効果があり、副作用もないことが判明しています。もし痛みが続く場合は、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬を投与して様子をみるとも示されています。


腰痛と抗炎症薬の関係性

Cochrane(2008年)

慢性腰痛患者に対しての実験でNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)はプラセボと比較して、小さいながらも有意な効果があることが確認されました。

Cochrane Database of Systematic Reviews(2016年)

掲載された研究は、痛みの強さに関してNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)がプラセボより有効であり、障害に関してもわずかに有効であることを示されました。

Annals of the Rheumatic Diseases(2017年)

掲載された研究では、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は慢性的腰痛にあまり効果がないことがわかりました。しかし、同じ年に発表された勧告では、薬を完全に避けるのが最善かもしれないと結論づけています。

Science Translational Medicine(2022年)

発表された研究では、薬物治療のアドバイスは、場合によっては人の生活の質を低下させる慢性疼痛を助長する可能性があるという警告が含まれています。


まとめ

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は慢性腰痛にほとんど効果はありません。このタイプの薬物は、急性腰痛に対して短期間の使用であれば害も少なく、改善効果が見込めます。しかし、腰痛が完治しないからといって長期間使用すると、腰痛が頻繁に再発する可能性があります。また、持病をお持ちの方、高齢者の方に対しては、お身体への負担が高まりますので処方できない場合もあります。
だからといって、痛み等の症状を我慢すると急性腰痛が慢性腰痛に変わるリスクが高まりますので、専門医と相談して適切な治療を行いましょう。

抗炎症薬は急性腰痛を慢性化させるリスクあり? 結論

参考文献参照元

①Non-steroidal anti-inflammatory drugs for spinal pain: a systematic review and meta-analysis - 2017 - Gustavo C Machado, Chris G Maher, Paulo H Ferreira, Richard O Day, Marina B Pinheiro, Manuela L Ferreira - Annals of the Rheumatic Diseases (Volume 76, Issue 7, P 1269-1278)
②On the natural sciences - their place in education - 2000 - Science Translational Medicine (Volume 14, Issue 644)
③腰痛治療のための薬剤選択と使用法 - 2015 - 尾形 直則 - 日本職業・災害医学会会誌 (第63巻第4号)
④Acute inflammatory response via neutrophil activation protects against the development of chronic pain - 2022 - Marc Parisien, Lucas V Lima, Concetta Dagostino, Nehme El-Hachem, Gillian L Drury, Audrey V Grant, Jonathan Huising , Vivek Verma, Carolina B Meloto, Jaqueline R Silva, Gabrielle G S Dutra, Teodora Markova, Hong Dang, Philippe A Tessier, Gary D Slade, Andrea G Nackley, Nader Ghasemlou, Jeffrey S Mogil, Massimo Allegri, Luda Diatchenko - 掲載誌 Science Translational Medicine (Volume 14, Issue 644)
⑤Non-steroidal anti-inflammatory drugs for sciatica - 2016 - Eva Rasmussen-Barr, Ulrike Held, Wilhelmus Ja Grooten, Pepijn Ddm Roelofs, Bart W Koes, Maurits W van Tulder, Maria M Wertli - Cochrane Database of Systematic Reviews (Volume 10, Issue 10)

参考文献のリンク

Non-steroidal anti-inflammatory drugs for spinal pain: a systematic review and meta-analysis
On the natural sciences - their place in education
腰痛治療のための薬剤選択と使用法[PDF]
Acute inflammatory response via neutrophil activation protects against the development of chronic pain
Non-steroidal anti-inflammatory drugs for sciatica

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任