概略

痛風は炎症性関節炎の一種であり、その中でも腰痛に酷似した症状の脊椎痛風という稀な疾患があります。認知度も低く、診断が困難なため、早期診断と薬物療法で予防、改善に努めましょう。


痛風と腰痛に関係があるか? 序論

目次

はじめに

先日、インターネットで当クリニックの再生治療をお知りになられた患者様が来院されました。この患者様は、非特異的腰痛症と診断されたために様子を見ておられましたが、腰痛の症状が徐々に悪化し悩まれておりました。検査・診察をしたところ、MRI画像に軽い椎間板変性があるだけで目立った異常はありませんでした。しかし、腰痛以外に足の指と足首に痛風の症状が出ていましたので、まず血液検査を勧めました。なぜ痛風なのに腰痛の症状が出たのでしょうか?今回は、痛風と腰痛の関係についてお話したいと思います。


結論

痛風の中でも脊椎痛風というレアケースの疾患があり、主に腰痛を引き起こします。脊椎痛風は、22~35%の人が罹患する可能性がありますが、症状の幅が広く、認知度も低いため診断されない場合が多いと考えられています。


痛風とは

痛風は、尿酸値の上昇によって起こる炎症性関節炎の一種です。尿酸は老廃物ですが、身体がそれを十分に除去できない場合、体内に蓄積されます。尿酸が過剰になると、関節の周囲、通常はつま先、足首、膝などの下半身に尿酸結晶が形成されることが一般的です。2016年のWorld J Orthopに掲載された論文によると、治療を行わないと痛風は進行し、皮膚の下に尿酸結晶が形成され脊椎に広がる可能性があります。痛風は通常、関節腔に影響を与えるため、椎間関節などの脊椎の領域は、尿酸結晶の沈着の影響を受けやすいとされております。かつての日本ではほとんど見られない病気でしたが、1960年代以降の食生活の変化や過食、運動不足が社会問題となるのと同時に痛風罹患者が増加しました。現在、日本における痛風患者数は30~60万人と推定されています。


痛風になりやすい条件

尿酸値が高くなると痛風リスクが高くなる可能性があり、主な要因として下記が挙げられます。

  • 男性
  • 肥満
  • 心不全
  • 高血圧
  • インスリン抵抗性
  • メタボリック・シンドローム
  • 糖尿病
  • 腎機能の低下
  • 利尿薬などの特定の薬
  • アルコール
  • フルクトースを多く含む食べ物や飲み物を摂取する
  • 赤身の肉、内臓肉、魚介類を含むプリンが豊富な食事を食べる

痛風の診断について

2019年、Medicine (Baltimore)に発表された研究記事によると、脊椎痛風は稀な疾患であり、現在のところ明確な診断基準がないため、診断が困難な場合があります。脊椎痛風の兆候は以下のようなものが考えられます。

  • 骨の痛み
  • 腰から臀部や脚に広がる痛みや痺れ、脱力感
  • 脊髄の圧迫
  • 高い尿酸値

痛風の治療法

脊椎痛風の治療薬は、通常の痛風治療薬と同じです。非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)を投薬することより、急性痛風発作の症状を治療・改善するのに役立つと考えられます。ただし、脊髄の圧迫がある場合は、手術が必要になることもあります。


まとめ

脊髄痛風はレアケースですが、早期診断と尿酸降下薬による投薬治療で、外科的手術の必要性を防ぐことができます。腰痛や痛風の病歴がある場合は、症状の緩和と病状の進行を防ぐ為にも、早めに医師に相談するようにお勧めします。利尿剤を使用している方、高血圧の方、肥満の方など、脊髄痛風の発症リスクが高い方は、この機会に生活習慣の見直しを検討しましょう。バランスの良い食生活と適度な運動は、腰痛疾患を予防・改善するのに大いに役立ちます。身体が軽いって良いものですよ(笑)

痛風と腰痛に関係があるか? 結論

参考文献参照元

①Diagnosing Spinal Gout: A Rare Case of Back Pain and Fever - 2021 - Andres Cordova Sanchez, Maneesh Bisen, Farzam Khokhar, Adriana May, Jihad Ben Gabr - Case Rep Rheumatol
②Spinal gout: A review with case illustration - 2016 - Hossein Elgafy, Xiaochen Liu, Joseph Herron - World Journal of Orthopedics (Volume 7, Issue 11, P 766-775)
③Diagnostic challenges of spinal gout - 2019 - Shaolong Ma, Jianhui Zhao, Rui Jiang, Quanming An, Rui Gu - Medicine (Volume 98, Issue 16)
④Gout involved the cervical disc and adjacent vertebral endplates misdiagnosed infectious spondylodiscitis on imaging: case report and literature review - 2019 - Suying Zhou, Yundan Xiao, Xin Liu, Yi Zhong, Haitao Yang - BMC Musculoskeletal Disorders (Volume 20, Issue 1, P 425)
⑤Tophaceous gout of the spine with cervical and lumbar involvement - 2017 - Xiaodong Tang, Xi Zheng, Zhongwen Lv, Zhiyang Deng, Yan Sun, Han Wu - International Journal of Clinical and Experimental Medicine (Volume 10, Issue 11, P 15575-15579)

参考文献のリンク

Diagnosing Spinal Gout: A Rare Case of Back Pain and Fever
Spinal gout: A review with case illustration
Diagnostic challenges of spinal gout
Gout involved the cervical disc and adjacent vertebral endplates misdiagnosed infectious spondylodiscitis on imaging: case report and literature review
Tophaceous gout of the spine with cervical and lumbar involvement [PDF]

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任