概略

脊椎固定術は多くの椎間板ヘルニアの患者様に必要な治療法ではありません。保存的治療や低侵襲の手術で多くの方は改善します。保存的治療で症状の改善が見られない方や筋力低下などの神経障害が進行している場合になって初めて検討すべきです。


椎間板ヘルニアに脊椎固定術をすることは本当に正しい選択肢だろうか? 序論

目次

椎間板ヘルニアに脊椎固定術をすることは正しい選択か?

コロナ禍も落ち着きつつあり、海外患者様からのお問い合わせが日増しに増えてきました。彼らのほとんどは外科的手術を勧められており、リスクの少ない治療を探して、また手術の失敗を恐れて当院へ助けを求め来日されます。特に中国の患者様は、椎間板ヘルニアの治療で脊椎固定術を受けられていることが多いように思います。しかし、椎間板ヘルニアの治療にとって脊椎固定術は本当に最適な選択肢でしょうか?
本日は、この話題に関して自分の意見を皆さんと共有したいと思います。


椎間板ヘルニアの患者様の大半は手術の必要はない

しかし、保存的治療で症状の改善が見られない場合や、筋力や感覚の低下などの神経障害が進行している場合は手術が非常に効果的です。


椎間板ヘルニアと脊椎固定術の研究報告

2022年「BMC Musculoskeletal Disorders」に掲載された研究では、椎間板L5-S1(一番下の腰骨と骨盤の間の椎間板)に固定術を受けた患者の3年間を追跡調査しました。その結果、この研究に参加した718人のうち、34人(全体の4.7%)が術後の隣接椎間障害に悩まされていることがわかりました。


外科的手術「脊椎固定術」について

脊椎固定術は、損傷した椎間板に変わって腰椎を金属で固定し、背骨を安定させることを目的とした外科的手術です。但し、お身体の状態によっては手術をすること自体がリスクになる場合もあり、また手術を希望しても手術ができないことがあります。また、手術ができたとしても、固定された脊椎の部分がもはや曲げたりねじったりすることができないため、柔軟性と可動性を損なうといった別のリスクが伴います。


脊椎固定術後に起こり得る「隣接椎間障害」について

固定された骨の上下にある椎間板への負担が増大し、椎間板ヘルニアや椎間孔狭窄が生じます。その結果、神経根が圧迫されることで、引き起こされた神経根障害のことを隣接椎間障害といいます。
隣接椎間障害は、さらに下記のような疾患に繋がることもあります。

  • 椎間板変性
  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症
  • 脊椎すべり症
  • 脊柱側弯症

NLC野中腰痛クリニックによる腰椎椎間板ヘルニアの治療実績

当院における腰椎椎間板ヘルニアの治療実績をご紹介します。腰部脊柱管狭窄症と併発するケースも多く、また坐骨神経痛などの症状もみられます。当院の腰椎椎間板ヘルニアの治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、5,638件(集計期間:2018年6月~2024年3月)

ぎっくり腰を繰り返され、下肢全体にしびれが出現してしまい、趣味のテニスができなくなった患者さまです。複数の椎間板が潰れており、足の神経も圧迫を受けた脊柱管狭窄症と呼ばれる状態になっていたため、DST(ディスクシール治療)を行う事で坐骨神経症状の改善を図りました。


元々あった腰痛がゴルフに熱中されたあまりに悪化された患者さまです。他院にて外科的手術を勧められるも抵抗感があったため当院に受診されました。検査をしたところ、椎間板は変形して骨から飛び出し、足の神経の傍で炎症を起こしているのが見られます。今回は変形と炎症を治療するためDST法(ディスクシール治療)を行いました。


【まとめ】椎間板ヘルニアに脊椎固定術をすることは本当に正しい選択肢だろうか?

多くの椎間板ヘルニアは、脊椎が不安定になったり、深刻な神経の問題を引き起こしたりしないので、手術以外の方法で治療・改善することが可能です。例えば、理学療法や薬物療法、ブロック注射を使っての炎症や痛みの緩和といった手法です。また、当院のDST法(ディスクシール治療)のような修復・再生治療を用いて、損傷した椎間版を根本的に治療するといったことも可能ですので、脊椎固定術を受ける前にリスクが少なく、お身体にも優しい治療があるということを知っていただければと思います。

椎間板ヘルニアに脊椎固定術をすることは本当に正しい選択肢だろうか? 結論

参考文献参照元

①Guideline update for the performance of fusion procedures for degenerative disease of the lumbar spine. Part 8: Lumbar fusion for disc herniation and radiculopathy - 2004 - Jeffrey C Wang, Andrew T Dailey, Praveen V Mummaneni, Zoher Ghogawala, Daniel K Resnick, William C Watters 3rd, Michael W Groff, Tanvir F Choudhri, Jason C Eck, Alok Sharan, Sanjay S Dhall, Michael G Kaiser - Journal of Neurosurgery: Spine (Volume 21, Issue 1, P 48-53)
②Trends in Lumbar Fusion Procedure Rates and Associated Hospital Costs for Degenerative Spinal Diseases in the United States, 2004 to 2015 - 20019 - Brook I Martin, Sohail K Mirza, Nicholas Spina, William R Spiker, Brandon Lawrence, Darrel S Brodke - Spine (Phila. Pa. 1976). (Volume 44, Issue 5, P 369-376)
③Adjacent segment degeneration and adjacent segment disease: the consequences of spinal fusion? - 2004 - Alan S Hilibrand, Matthew Robbins - The Spine Journal (Volume 4, Issue 6, P 190S-194S)
④Adjacent segment disease after minimally invasive transforaminal lumbar interbody fusion for degenerative lumbar diseases: incidence and risk factors - 2022 - Chao Yuan, Jing Zhou, Liran Wang, Zhongliang Deng - BMC Musculoskeletal Disorders (Volume 23, Issue 1, P 982)

参考文献のリンク

Guideline update for the performance of fusion procedures for degenerative disease of the lumbar spine. Part 8: Lumbar fusion for disc herniation and radiculopathy
Trends in Lumbar Fusion Procedure Rates and Associated Hospital Costs for Degenerative Spinal Diseases in the United States, 2004 to 2015
Adjacent segment degeneration and adjacent segment disease: the consequences of spinal fusion?
Adjacent segment disease after minimally invasive transforaminal lumbar interbody fusion for degenerative lumbar diseases: incidence and risk factors

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任