概略
脊柱菅狭窄症の治療について、脊椎固定術と人工椎間板置換術を比較します。人工椎間板置換術は活動的な生活を送りたい人にとって、脊椎固定術はより安定した手術を望む人にとって良い選択肢であるということです。人工椎間板置換術は脊椎の可動性を高めることができます。脊椎固定術はより確立された手術であり、合併症のリスクが低くなります。
目次
【序論】日本の脊椎固定術対欧米の人工椎間板置換術どっちが良い?
つい最近、脊椎固定術を受けられた患者様から欧米で行われている人工椎間板置換術について意見を求められました。患者様は数年前にすべり症と診断され、脊椎固定術を受けられました。治療後2年ほどは腰の調子が良かったようですが、徐々に腰痛や坐骨神経痛が再発し、日常生活も支障が出るようになりました。患者様は手術をされたことを後悔されておられ、「もし、欧米で行われている人工椎間板置換術だったらこの様なことになっていないのではないか?」と思われたようです。
【結論】スポーツするなら人工椎間板置換術、日常生活を過ごすなら脊椎固定術
どうしても運動したい患者様にはリスクはありますが人工椎間板置換術の手術も有効だと考えられますが、日常生活程度を希望される患者様は脊椎固定術を検討される方が良いと考えられます。
人工椎間板置換術のメリットは骨を固定することがないため椎間(背骨と背骨の間にあるクッションの機能を果たす部分)の動きを保つことができスポーツ等の運動ができることです。
また脊椎固定術は歴史が長く症例数が多いため安定した効果が見込めることです。
しかしそれぞれの術式にはデメリットもあります。手術を検討される場合はまず医師と十分に相談されることをお勧めします。
日本の脊椎固定術と欧米の人工椎間板置換術の治療法比較
人工椎間板置換術の場合
メリット
- 手術が成功した場合は、脊椎固定術よりも動きやすい
- スポーツなどの運動が脊椎固定術よりも容易にできる
- 脊椎固定術よりも再発率が低い
デメリット
- コストが高い
- 感染のリスクが高い
- やり直しが効かない
脊椎固定術の場合
メリット
- 長い歴史があり、効果が安定している
- 手術が単純なので麻痺など合併症の可能性が低い
- 保険が効く
デメリット
- コストが高い
- 再発が多い
- 運動がしにくい
NLC野中腰痛クリニックによる坐骨神経痛の治療実績
当院における坐骨神経痛の治療実績をご紹介します。坐骨神経痛は腰痛疾患をお持ちの幅広い年齢層の患者様に見られる症状です。当院の坐骨神経痛の治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、6,466件(集計期間:2018年6月~2024年11月)
脊柱管狭窄症に対して脊椎固定術を行われた患者さまです。術後に症状の改善は認められましたが、坐骨神経痛が再発(FBSS(脊椎術後疼痛症候群・隣接椎間障害))したため当院にてディスクシール治療(Discseel® Procedure)を施術致しました。治療後は2時間ほどベッドでお休みいただき、帰宅していただております。
【まとめ】日本の脊椎固定術対欧米の人工椎間板置換術どっちが良い?
最近、ドイツでは脊椎固定術よりも人工椎間板を使用するケースが増えているようです。腰椎の可動域が改善され、椎間板への負担が減るからです。ただ、まだまだ論文でも人工椎間板に関する問題が指摘されています。人工椎間板は、椎体固定術と比べると技術的に優れていると思いますが、本来の椎間板の機能には及びません。昨今、再生治療の研究が進んでおり、今後は人工椎間板から再生治療の時代に移行していくと思われます。
参考文献の参照元
①2017年度側方進入腰椎椎体間固定術の合併症に関する全国調査結果報告: 八木 満 / 藤林 俊介 / 中村 雅也 / 種市 洋 / 大鳥 精司 / 西良 浩一 / 石井 賢 / 吉井 俊貴 / 戸川 大輔 / 酒井 大輔 / 渡辺 雅彦 / 岩﨑 幹季 - 2020 - 11巻1号 (p.2-7)
②The artificial disc: theory, design and materials: Qi-BinBao / Geoffrey M.Mccullen / Paul A.Higham / John H.Dumbleton / Hansen A.Yuan - 1996 - Biomaterials (Volume 17, Issue 12, Pages 1157-1167)
③Artificial disc replacement in spine surgery: Yahya A. Othman / Ravi Verma / Sheeraz A. Qureshicorresponding - 2019 - Ann Transl Med
④Complications of Artificial Disc Replacement.: van Ooij / André Oner / F.Cumhur Verbout / Ab J - 2003 - A Report of 27 Patients with the SB Charité Disc (Volume 28 - Issue 0 - p 369-383)
⑤Artificial Disc Versus Fusion: A Prospective, Randomized Study With 2-Year Follow-up on 99 Patients: Rick C Sasso / Joseph D Smucker / Robert J Hacker / John G Heller - 2007 - Spine (Phila Pa 1976)
参考文献のリンク
①2017年度側方進入腰椎椎体間固定術の合併症に関する全国調査結果報告
②The artificial disc: theory, design and materials
③Artificial disc replacement in spine surgery
④Complications of Artificial Disc Replacement. (A Report of 27 Patients with the SB Charité Disc)
⑤Artificial Disc Versus Fusion: A Prospective, Randomized Study With 2-Year Follow-up on 99 Patients
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは背骨にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなる疾患です。腰痛、足の神経障害や歩行困難などの症状を引き起こします。