はじめに
先日開催された「第33回日本腰痛学会」において、とても興味深い講演がありましたので今回は、その講演で取り上げられた内容を皆様に分かりやすくお届けしたいと思います。
我々の治療も野球界とは縁が深いですが、プロ野球選手の腰椎分離症に関しての初めての体系的な調査の報告です。野球をされているお子さんをお持ちの親御さんや、腰痛に悩むアスリートの方々にとって、非常に参考になる内容になっています。
腰椎分離症とは?
腰椎分離症(ようついぶんりしょう)とは、腰椎の後ろ側の骨(棘突起)が両脇の骨(横突起)との間で骨折を起こして分離する疾患です。分離した骨は元通りにくっつくこともあればバラバラのままのこともあります。バラバラの状態ですとそれ自体も痛みの原因になることもありますし、不安定ですので、椎間板に負担がかかり損傷を早める原因になったり、すべり症が進行するケースも多くなります。

症状
- 体を捻ったり、反らすと痛みが強くなる
- 両足の痺れ
- 腰の重だるさ
一般的にはこのような症状が発生することが多いですが、後述するプロ野球選手の調査では、分離症があっても痛みを感じていない選手が約半数いることが明らかになっています。
原因
腰椎分離症は10代の成長期に骨が未発達な状態で過度な運動をすることで発生しやすい疾患です。一般的には1割程度認めますが、スポーツ選手、特に野球選手では発症率が極めて高いことが明らかになりました。
プロ野球選手における腰椎分離症の実態【2025年学会報告】
今回の学会発表では、プロ野球選手を対象とした初の体系的な調査結果が報告されました。この研究により、これまで明らかになっていなかった多くの事実が浮き彫りになりました。
発症率は約3割
調査の結果、プロ野球選手の約3割近くの選手が腰椎分離症になっていることが分かりました。一般人口での発生率1割程であることを考えると、実に3倍以上の高い割合です。また、30~40年前の報告では約5割近くもあったことから、無理で過酷な練習が減ってきた最近のご時世を反映していることが分かります。根性論のやり過ぎ練習はダメなのです!
半数は無自覚のまま発症
では、この約3割の分離症の選手がいつ分離症だとわかったかというと、半数はプロに入団するときのメディカルチェック(身体検査)で見つかったようです。つまり、約2割の選手は知らないうちに分離骨折を起こしていて、そのままスポーツを続けていたことになります。若いうちの分離症は気づかれないことが多いとは言われますが、プロになるほどのスポーツをしている選手では更に多いことに驚きました。
- 学生時代に知らないうちに分離骨折を起こしていた
- そのまま高いレベルのスポーツ活動を続けていた
- 診断されるまで分離症に気づいていなかった
更に、この約2割の分離していることに気が付いていなかった選手たちが腰痛などの症状が何もなかったかを確認すると、半数を超える選手が腰痛を自覚していいたが病院を受診していなかったことが分かりました。皆さんもわかってはいる事だとは思いますが、何か症状があれば病院を受診し検査することが重要なのですね!でも、競争の激しいプロを目指す世界では言い出しにくい雰囲気もあるのでしょうか?

治療法と骨癒合率
学生時代に分離症を発症し病院を受診した選手がどのような治療を行ったかというと、3か月程度安静にして、骨がくっつく治療を行った選手のうち5割程度は骨がくっついたようですが、早期復帰を希望した選手は1か月程度安静にしただけで、あとは痛みをコントロールしながら練習に復帰し、その結果、骨がくっついた選手は約1割もいなかった様です。
【しっかり安静にした場合】
- 治療期間:約3ヶ月
- コルセット装着と運動制限
- 骨癒合率:約5割ほど
- つまり、2人に1人は骨がくっついて治癒
【早期復帰を優先した場合】
- 治療期間:約1ヶ月
- 痛みをコントロールしながら練習復帰
- 骨癒合率:1割未満
- 大半の選手で骨がくっつかず分離したまま
この結果の違いは極めて大きいと言えます。3ヶ月という期間を我慢するかどうかが、将来の腰の健康を大きく左右する可能性があるのです。

分離症とプロ野球生活
では、分離症があるとプロ野球選手として活躍することはできないのでしょうか?
実は、分離症があっても痛みがある選手は半分くらいなので、意外とプレーができてしまう様です。一流選手の中には腰椎分離症があっても全く症状が無くプレーが出来ている選手も多いとのことでした。
確かにプロ野球を目指している選手にとっては自分の人生がかかっている状況とはいえ、長い将来のことを考えれば、数か月我慢して骨癒合をしたほうがいいと思うのですが、実際には、なかなか難しい判断なのかもしれませんね。
- それ自体が痛みの原因になることがある
- 腰椎が不安定になり、椎間板への負担が増加
- 椎間板損傷を早める可能性がある
- すべり症(腰椎が前方にずれる状態)に進行するリスクが高まる
まとめ
2025年腰痛学会で発表されたプロ野球選手の腰椎分離症に関する研究から、ポイントを整理してみました。
【ポイント】
- プロ野球選手の約3割近くが腰椎分離症を有している(一般人の約3倍)
- 半数は無自覚のまま発症し、プロ入団時に初めて発見される
- 3ヶ月の安静治療で約5割近くが骨癒合するが、早期復帰では1割未満
- 分離症があっても症状なくプレーできる選手も多い
小学生の息子が野球をやっていまして、彼なりに一生懸命やっていることから、とても興味深くもあり、また、いろいろと考えさせられる研究発表でもありました。
もし異変を訴えたらすぐに検査をして、、、
もし分離していたら、、、
少なくとも3か月は安静にしつつ、骨折面にPRPを注入して骨癒合を早めたらいいのかな、、、
などと想像してしまいました。
日ごろから体幹トレーニングとストレッチを大切にし、ケガをしにくい体を作ることで予防し、無理をし過ぎないようにして、何事もないのが一番いいのですけどねぇ、これがなかなか・・・
すっかり涼しくなり、物思いにふけるのにいい季節になりましたね。
※この記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。
腰痛などの症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診察を受けてください。
関連記事
この記事の著者
大阪本院 副院長石田 貴樹
2009年:高知大学卒業・医師免許取得、2012年:神戸市立医療センター西市民病院勤務、2013年:兵庫県立尼崎病院勤務、2014年:関西労災病院勤務、2019年:ILC国際腰痛クリニック勤務、2021年:野中腰痛クリニック勤務、2022年:2年間の研修を経て10月にライセンスを獲得、2023年:医療法人蒼優会理事就任・野中腰痛クリニック副院長就任