概略
ブロック注射(硬膜外ステロイド注射)は、長期的または頻繁に使用することはお勧めできません。ブロック注射は短期的に使用することで痛みの緩和に効果的ですが、感染症や骨粗鬆症のリスクがあります。また、ブロック注射は腰痛の根本治療ではありません。
はじめに
先日、クリニックのご近所に引っ越しされた患者様に「痛み止めを飲みたくないのでステロイド注射をお願いできませんか?」と聞かれました。患者様ご自身から注射を頼む方が少ないので驚きましたが、患者様の事情をお聴きしたところその理由がわかりました。
- 脊柱菅狭窄症が原因で長年に及ぶ腰痛と坐骨神経痛がある。
- 子どものころから胃腸が弱く、鎮痛剤を内服できない。
- 外科手術を受けたくない
- 2ヵ月前にブロック注射(硬膜外ステロイド注射)を受けたたが、引っ越しの間に腰を痛めた。
さて、読者の皆様は、以上の問診から「硬膜外ステロイド注射を受けることができますか?」という患者様の質問に答えられるでしょうか?
結論
軽度の腰痛患者様の場合にブロック注射(硬膜外ステロイド注射)で効果を得るためには、1~4週間の間隔で1~2回の注射を行う事が良いと報告されています。慢性的な痛みがある場合には、3~6ヵ月間隔でブロック注射を受けることができます。
しかし、長期的な使用、短期の大量投与は、副作用のリスクがありますので 12ヵ月以内に同じ場所に3回以上注射することはおすすめしません。
なぜ頻繁にステロイド注射を打つことが良くないのか?
硬膜外ステロイド注射は、神経根障害を伴う腰痛の治療に50年以上にわたって広く使用されてきました。日本では、ほとんどの麻酔科医師がその有効性と安全性が確立されています。しかし、海外のコクラン系統的レビュー(医療や医療政策において重要な研究)は物議を醸す結果を明らかにし、硬膜外ステロイド注射の有効性に疑問を投げかけており、さらにいくつかの神経学的有害事象が報告されています。
ステロイド注射を繰り返すと、近くの骨や腱、靭帯が弱くなることがありますので、次の注射を受けるまでに、投与間隔を数か月毎にすべきだと報告されています。
硬膜外ステロイド注射のメリットとデメリット
メリット
- メスが不要の治療
- 鎮痛効果が良い(痛みの緩和)
- 炎症を抑える
- 医療保険が効く
デメリット
- 骨粗鬆症のリスク(骨の代謝やホルモンの産生に影響を与えて骨が脆くなる可能性がある)
- 感染症になりやすい(ステロイド薬は免疫を抑制するため)
- 根本的治療ではない
まとめ
ステロイド薬にはメリットの反面、副作用もあるため短期的な大量投与や長期的な治療は避けるべきです。しかし、耐えられない痛みがある場合に限り、緊急的に使用する分には問題が無いと考えます。
参考文献参照元
①腰部椎間板ヘルニアに対する椎間板内ステロイド注入療法: 伊藤茂彦 / 室 捷之 - 2003 - 日本腰痛学会雑誌9巻(1号 p.95-101)
②椎間関節造影とステロイド注入により寛解した腰椎椎間関節嚢腫の3症例: 渋谷まり子 / 平良 豊 / 比嘉康敏 - 2020 - 日本ペインクリニック学会誌27巻(4号 p.308-313)
③Epidural steroid injections in the management of low-back pain with radiculopathy. an update of their efficacy and safety: Michel Benoist / Philippe Boulu / Gilles Hayem - 2012 - European Spine Journal Vol.21 (p204–213)
④Relation of inflammatory modic changes to intradiscal steroid injection outcome in chronic low back pain: Fouad Fayad / Marie-Martine Lefevre-Colau / François Rannou / Nathaly Quintero / Alain Nys / Yann Macé / Serge Poiraudeau / Jean Luc Drapé / Michel Revel - 2007 - European Spine Journal Vol.16 (p925–931)
⑤A retrospective analysis of the efficacy of epidural steroid injections: Rosen CD / Kahanovitz N / Bernstein R / Viola K - 1988 - Clinical Orthopaedics and Related Research Vol.228 (p270-272)
参考文献のリンク
①腰部椎間板ヘルニアに対する椎間板内ステロイド注入療法
②椎間関節造影とステロイド注入により寛解した腰椎椎間関節嚢腫の3症例
③Epidural steroid injections in the management of low-back pain with radiculopathy. an update of their efficacy and safety
④Relation of inflammatory modic changes to intradiscal steroid injection outcome in chronic low back pain
⑤A retrospective analysis of the efficacy of epidural steroid injections
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任