はじめに
先日、LINEで募集させていただいた質問についてお答えしたいと思います。
今回は若年層(20代・30代)の方でも椎間板変性症になることがあるのか?またどんな方がなりやすいのか。その特徴について論文を引用しながら解説していきます。
ご挨拶
はじめまして、東京院の院長、山﨑です。
私のことを知らない方が大多数だと思いますので、軽く自己紹介をさせていただきます。
私は麻酔科出身で、大学病院や地域中核病院において手術の際の全身麻酔、集中治療、ペインクリニック(痛みの治療)を行ってきました。
(現在も腰痛治療の傍、急性期病院で手術麻酔を行っています。)
先週、高輪ゲートウェイで開催された、ペインクリニック学会に参加してまいりました。最近は、ペインクリニック学会でも腰痛の治療が注目されており、腰痛治療に関する発表や治療戦略に関するレクチャーなどがありましたので、そのことについても、お話させていただきたいと思います。
若年層(20~30代)でも椎間板変性症になる!?
20~30代でも珍しくない椎間板の変形

こちらは当院にご受診いただいた30代男性の腰のMRI画像です。赤丸の椎間板は潰れ、他の椎間板と比べると薄く、黒くなっているのが分かると思います。
実は、20~30代の若年成人でも椎間板の退行変性は珍しくありません。多くの論文の結果をまとめて分析を行ったシステマティックレビュー論文の結果では、20代の約3人に1人、30代の約半数には、腰痛などの症状がなくても画像上は椎間板の変性が始まっていることが報告されています。

出典: Brinjikji W, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811–6.
海外での事例
実際にインドの若年者50例のMRIを評価した報告では56%に椎間板変性(ヘルニア、線維輪裂、髄核変性のいずれか)が確認されています。(Chadha et al., 2022)
また、イギリスの19歳のテニス選手を対象とした研究でも、98人中61人(62.2%)で椎間板の変性を認めたと報告されています。(Rajeswaran et al., 2014)
このように、若年者でも椎間板変性は起こっていることがわかります。
どんな人に変形が起こりやすいのか?
では、どのような方に椎間板変性や椎間板ヘルニアが起き易いのでしょうか。
職業的要因として、肉体的に重い作業や長時間の労働、反復する前屈・重量物挙上などは腰椎への負荷を高め、椎間板変性やヘルニアの発生リスクを増加させます。一方で長時間の座位といった静的な負荷も問題で、デスクワークなど座りっぱなしの生活は椎間板への軸圧を蓄積させ、若年者に後方型ヘルニアを引き起こす一因となることが指摘されています。その他の危険因子として、喫煙・肥満・糖尿病・過度の飲酒などの生活習慣も椎間板への栄養供給低下や炎症を促進し、変性を加速させることが報告されています。(Zielinska et al., 2021)
最近の症例対照研究(中国・吉林大学)ではBMI30超の肥満、椎間板疾患の家族歴、不良姿勢、1日6時間以上の座位、腰部外傷の既往が25歳以下の若年者における腰椎椎間板ヘルニアの有意なリスク因子と報告されています。(Qi et al., 2022)
以上のように、遺伝要因(家族歴や特定の遺伝子多型)と環境要因(職業的肉体負荷や生活習慣)の双方が若年での椎間板変性症発症に関与すると考えられています。
今後も、ご質問への回答や腰痛に関するトピックスなどを発信させていただきますので、お暇な時に目を通してみてください。
変形した椎間板に対する治療方法
今回ご紹介した若年層の椎間板変性症に対する治療方法として当院ではディスクシール治療やDRT法を提案しています。
- 過去に椎間板の変形を診断されている方
- 具体的な治療方法を検討している方
こうしたお悩みをお持ちの方はお気軽にご相談ください。
引用論文
Brinjikji, W., Luetmer, P. H., Comstock, B., Bresnahan, B. W., Chen, L. E., Deyo, R. A., Halabi, S., Turner, J. A., Avins, A. L., James, K., Wald, J. T., Kallmes, D. F., & Jarvik, J. G. (2015). Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR Am J Neuroradiol, 36(4), 811–816.
Chadha, M., Srivastava, A., Kumar, V., & Tandon, A. (2022). Disc Degeneration in Lumbar Spine of Asymptomatic Young Adults: A Descriptive Cross-Sectional Study. Indian Journal of Orthopaedics, 56(6), 1083–1089.
Qi, L., Luo, L., Meng, X., Zhang, J., Yu, T., Nie, X., & Liu, Q. (2022). Risk factors for lumbar disc herniation in adolescents and young adults: A case-control study. Front Surg, 9, 1009568.
Rajeswaran, G., Turner, M., Gissane, C., & Healy, J. C. (2014). MRI findings in the lumbar spines of asymptomatic elite junior tennis players. Skeletal Radiol, 43(7), 925–932.
Zielinska, N., Podgórski, M., Haładaj, R., Polguj, M., & Olewnik, Ł. (2021). Risk Factors of Intervertebral Disc Pathology-A Point of View Formerly and Today-A Review. J Clin Med, 10(3).
この記事の著者

東京院 院長山﨑 文平
2006年:川﨑医科大学卒業・医師免許取得・大阪警察病院勤務、2007年:大阪大学医学部付属病院勤務、2009年:大阪府立急性期・総合医療センター勤務、2011年:大阪大学医学部付属病院勤務、2013年:国立成育医療研究センター勤務、2015年:社会医療法人財団石心会川﨑幸病院勤務、2022年:慶応義塾大学医学部HTA公的分析研究室特任研究員、2023年:野中腰痛クリニック勤務・研修を経てライセンス獲得