はじめに
「最近ニュースやネットで『再生医療』という言葉をよく聞くけれど、具体的に何をするの?」「PRP療法や幹細胞治療、どれが自分の腰痛に効くのか分からない…」と来院された患者様からお聞きすることがあります。
長年治らない腰痛や関節痛に悩まれている方の中には、手術以外の選択肢として「再生医療」に興味を持たれている方も多いのではないでしょうか。しかし、専門用語が多く、その仕組みや違いを正しく理解するのは簡単ではありません。
今回は、当院(野中腰痛クリニック)のYouTubeチャンネルで公開した「【第1部】再生医療とは何か? ─ PRP・幹細胞(エクソソーム)治療の基礎を解説」の内容を基に、再生医療の基本から、PRP・幹細胞・エクソソームそれぞれの特徴と違いについて、医師の視点で分かりやすく解説します。
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目次
再生医療とは何か?
まず、「再生医療」とは一言でいうと何でしょうか。 これまでの一般的な医療(薬や手術)と、再生医療の最大の違いは「治し方のアプローチ」にあります。
これまでの医療(対症療法・外科的療法)
- 薬や湿布で痛みを一時的に抑える。
- 悪くなった部分を手術で切り取る、あるいはボルトで固定する。
- つまり「症状をコントロールする」あるいは「悪い部分を取り除く」ことが目的
再生医療
- 人間が本来持っている「自己修復能力(治ろうとする力)」を最大限に引き出す。
- 損傷した組織や機能を、自身の細胞や成分を使って「元通りに修復・再生」しようとする治療法です。
機械の修理で例えるなら、部品を新品に交換するのが手術だとすれば、材質そのものを補強・修復して、再び使える状態に戻すのが再生医療と言えるでしょう。

3つの主要な再生医療:その違いと特徴
現在、整形外科や腰痛治療の分野で主に行われている再生医療には、大きく分けて「PRP療法」「幹細胞治療」「エクソソーム(幹細胞培養上清液)」の3つがあります。
これらは全て「体を治す」という目的は同じですが、使う成分や作用の仕方が異なります。
1.PRP療法(多血小板血漿)
〜自分の血液成分で「修復」のきっかけを作る〜
PRP(Platelet-Rich Plasma)療法は、ご自身の血液を使用する治療法です。
仕組み
患者様から採血を行い、特殊な遠心分離機にかけて、血液中の「血小板」を濃縮して取り出します。この濃縮された液体(PRP)を患部に注射します。
なぜ効くのか?(成長因子)
血小板は、出血を止める役割のほかに、組織を治すための成分である「成長因子(Growth Factor)」を豊富に含んでいます。この成長因子が、傷んだ組織に放出されることで、「ここを治して!」という合図を送り、組織の修復と抗炎症(痛みを抑える)作用を発揮します。
メリット
自分の血液を使うため、アレルギー反応のリスクが極めて低く、採血だけで済むため体への負担が少ないのが特徴です。

2.幹細胞治療
〜細胞そのものを投与し、強力に修復する〜
PRPよりもさらに一歩踏み込んだ治療が、幹細胞治療です。
仕組み
患者様の腹部などの脂肪組織や骨髄から「幹細胞」を採取し、培養して増やした後、体内に戻します。
幹細胞の能力(分化とパラクリン効果)
幹細胞には、筋肉や骨、軟骨など、様々な細胞に変化する「分化能」があります。しかし、それ以上に重要なのが「パラクリン効果」と呼ばれる働きです。 これは、幹細胞が患部に定着し、周囲の細胞に対して「修復しなさい」「炎症を鎮めなさい」という強力な命令(シグナル)を出す働きのことです。これにより、PRP以上の組織修復効果が期待できます。

3.注目の新潮流:エクソソーム(幹細胞培養上清液)
〜細胞が出す「メッセージ物質」だけを活用〜
近年、非常に注目されているのが「エクソソーム」です。
定義
幹細胞を培養した際に生じる「上澄み液(培養上清液)」に含まれる成分です。ここには、幹細胞自体は含まれていませんが、幹細胞が放出した**「メッセージ物質(カプセル)」**が大量に含まれています。
役割
このカプセル(エクソソーム)の中には、成長因子や遺伝情報が入っており、損傷した細胞に届くと「修復スイッチ」をオンにします。
特徴
細胞そのものを投与しないため、がん化のリスクなどの懸念が少なく、非常に扱いやすい新しいタイプの再生医療です。「幹細胞治療の良いとこ取り」とも言われています。

【比較表】PRP・幹細胞・エクソソームの違い
それぞれの違いを分かりやすく表にまとめました。
| 項目 | PRP療法 | 幹細胞治療 | エクソソーム |
| 主成分 | 自分の血小板(加工) | 自分の細胞(生きた細胞) | 細胞からの分泌成分 |
| 主なメカニズム | 成長因子による修復促進 | パラクリン効果(修復命令)+分化 | 情報伝達による修復スイッチ |
| 期待される効果 | 抗炎症・組織修復の促進 | 組織再生・強力な抗炎症 | 幹細胞と同等の修復・抗炎症 |
| 身体への負担 | 採血のみ(低) | 脂肪採取等の手術が必要(中) | 点滴や注射のみ(低) |
腰痛治療における再生医療の役割
腰痛、特に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患において、再生医療はどのような役割を果たすのでしょうか。
腰のクッションである「椎間板」は、一度傷つくと自然には治りにくい(血流が乏しい)組織です。これまでは「痛み止めで我慢する」か「手術で取る」しかありませんでした。
しかし、再生医療の技術を応用することで、椎間板の炎症を強力に抑え、組織の修復環境を整えることが可能になりました。
当院で行っている「ディスクシール治療」や「DRT法」といった椎間板治療も、これらの再生医療の理論を応用・発展させたものです。「保存療法では治らない、でも手術のような大掛かりなことは避けたい」という患者様にとって、再生医療は手術を回避するための第3の選択肢となり得ます。
まとめ
今回の記事では、再生医療の基礎について解説しました。
- 再生医療は、自身の「治す力」を引き出し、機能を回復させる治療法。
- PRP療法は、血液中の「成長因子」を利用して炎症を抑え修復を促す。
- 幹細胞治療は、細胞そのものが持つ「命令(パラクリン効果)」で強力に組織を再生させる。
- エクソソームは、幹細胞のメッセージ物質だけを使い、安全かつ効率的に修復スイッチを入れる。

「私の症状にはどれが合っているの?」と迷われる方も多いと思います。最適な治療法は、痛みの原因、損傷の程度、そして患者様が何を望むか(痛みの除去か、組織の再生か)によって異なります。
自己判断せず、まずは専門医による正しい診断を受けることが、解決への第一歩です。
腰の痛みでお悩みの方へ
野中腰痛クリニックでは、MRI画像による詳細な診断を行い、あなたの症状に再生医療やディスクシール治療が適応するかどうかを判断いたします。
遠方の方でもご利用いただける「無料画像相談」も実施しておりますので、手術を検討する前に、ぜひ一度ご相談ください。
当院でのご受診をご希望の方は下記メールフォームよりお気軽にお問合せください。
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この記事の著者
大阪本院 副院長石田 貴樹
2009年:高知大学卒業・医師免許取得、2012年:神戸市立医療センター西市民病院勤務、2013年:兵庫県立尼崎病院勤務、2014年:関西労災病院勤務、2019年:ILC国際腰痛クリニック勤務、2021年:野中腰痛クリニック勤務、2022年:2年間の研修を経て10月にライセンスを獲得、2023年:医療法人蒼優会理事就任・野中腰痛クリニック副院長就任