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「寒いと腰が痛む」は気のせい?天気痛の真実と、冬に検索が急増するワケを医師が解説

はじめに

「寒くなると古傷が痛む」「雨の日は腰が重い気がする」。診察室でも、患者さんからよく伺うお悩みです。 「やはり冷えは万病のもと」と納得してしまいがちですが、実は医学研究の世界では、“天気そのもの”が腰痛を直接引き起こすという証拠は、現時点ではそれほど強くありません。
では、なぜ私たちは冬になると腰の不調を感じやすくなるのでしょうか? 世界の最新研究から見えてきた「冬の腰痛の正体」と、冬になるとインターネット上で起きる「ある興味深い現象」について、医師の視点でやさしく解説します。


目次

「寒いと痛い」は本当か?医学研究が見た「天気痛」の真実

まず、天気と痛みの関係について、科学はどのように見ているのでしょうか。

「今日は寒いから必ず痛む」とは限らない

日々の気象(気温・湿度・気圧など)と「急に腰が痛くなる(急性腰痛)」ことの関係を丁寧に調べた研究があります。オーストラリアで行われた約1,000人を対象とした大規模な研究では、気象条件の違いによって急性腰痛の発症リスクが変わるというはっきりした関連は見つかりませんでした。また、風の強さなどにごく小さな差が出たとしても、臨床的には意味が小さいという結論に至っています。つまり、「今日は寒いから、間違いなく腰が痛くなるはずだ」と過度に心配する必要はないといえます。

重要なのは「天気×行動」の掛け合わせ

一方で、慢性的な腰痛をお持ちの方では、「湿度が高い」「気圧が低い」といった日に痛みがやや強まりやすいとするデータもありますが、これには個人差(天気に左右されやすいかどうか)が大きく関係します。

天気によって影響を受ける人・受けない人

ここで興味深いのが、「その日をどう過ごしたか」が影響するという研究結果です。 屋外にいる時間が長い日は気温や風と痛みの関係が現れやすく、屋内で過ごす日は関係が見えにくいという、“効果の出方の違い(効果修飾)”が示されています。 単に「天気が悪い=痛い」のではなく、「天気×行動→痛み」という組み合わせで捉えるほうが、実態に近いといえるでしょう。

冬に「腰痛」と検索する人が急増するワケ

痛みそのもののメカニズムとは別に、私たち人間の「行動」や「心理」にも季節の波があることが分かってきています。

Google検索に見る「関心の季節性」

インターネット上の検索データなどを分析し、公衆衛生に役立てる「インフォデミオロジー(情報の疫学)」という分野があります。 イタリアで「腰痛」に関するGoogle検索やWikipediaの閲覧数を解析した研究によると、人々の検索量は冬に明確なピークを迎えることが分かりました。つまり、冬になると「腰痛が気になる人」が増えるという“関心の季節性”が存在するのです。

受診者数は変わらないのに、なぜ検索が増える?

一方で、実際の医療現場のデータを見てみると、少し違った景色が見えます。カナダの救急外来の研究では、腰痛での受診割合に明確な季節差はなく、年間を通してほぼ安定していました。「病院に行くほどではないけれど、なんとなく腰が痛い・気になる」。そんな人々が、解決策を求めてネット検索をしている姿が浮かび上がってきます。

検索数と受診数のギャップ

この背景には、年末年始の生活リズムの乱れや、寒さで体がこわばりやすいことなどが影響し、痛みを“感じやすく”なっている可能性があります。検索データの増加は、「いま多くの人が腰の不調に困っている」という、医療への需要を示す早いシグナルともいえるのです。

冬腰痛の「真犯人」は寒さそのものより「動かないこと」

では、実際に冬の不調を引き起こしている最大の要因は何なのでしょうか。 ここで強調したいのが、「冬の活動量低下→筋力低下→腰痛リスク増」という負の連鎖です。

「冬眠モード」が腰を痛める

世界中の研究をまとめたレビューにおいて、人間は夏に最も活動的になり、冬に最も活動量が落ちる傾向が繰り返し確認されています。「寒いから」といって動かないでいると、体を支える体幹の持久力が落ちてしまいます。さらに、同じ姿勢で長く座る時間が増えれば、腰への負担は確実に増していきます。

冬とそれ以外の季節の活動量の比較

もちろん、冷蔵倉庫内や寒冷な屋外での作業といった「職業的な寒冷暴露」がある場合は、明確に腰痛リスクが高まるため、衣服や作業設計などの対策が必須です。しかし、一般的な生活を送る方にとっては、寒さそのものよりも「寒さを理由に動かなくなること」が、痛みの悪循環を生む大きな原因と考えられます。

冬の腰痛スパイラルを断つ! 医師からのアドバイス

最後に、冬の腰痛を予防・改善するために、今日からできる対策をお伝えします。

「温める」は一時的な助けと割り切る

つらい時に患部を温める(温湿布など)ことは、一時的に痛みを和らげる助けになります。しかし、ビタミンDなどのサプリメントを含め、それだけで慢性痛が根本的に治るという強い根拠はありません。温めることはあくまで「痛みを和らげて、動きやすくするため」の準備と考えましょう。

「冬こそ動く」が最強の予防薬

痛みの悪循環を断つ第一歩は、やはり体を動かすことです。 歩行と教育を組み合わせたプログラムが、腰痛の再発を有意に減らすことが大規模な試験で示されています。 「寒いから動かない」という思考を転換し、「冬だからこそ、意識して少し歩こう」「室内で軽い運動をしよう」と心がけることが重要です。

まとめ

冬になると「腰痛」と検索したくなるのは、あなただけではありません。多くの人が関心を高めるこの季節こそ、対策を始める絶好のタイミングです。 カイロを貼るだけでなく、こまめな歩行や室内での軽いエクササイズを取り入れ、冬の運動不足による「腰痛スパイラル」を断ち切りましょう。

冬に慢性的な腰痛を繰り返している方、寒いと症状が気になる方は一度診察をお考え下さい。当院でのご受診をご希望の方は下記メールフォームよりお気軽にお問合せください。

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この記事の著者

野中腰痛クリニック 東京院 院長:山﨑文平

東京院 院長山﨑 文平

2006年:川﨑医科大学卒業・医師免許取得・大阪警察病院勤務、2007年:大阪大学医学部付属病院勤務、2009年:大阪府立急性期・総合医療センター勤務、2011年:大阪大学医学部付属病院勤務、2013年:国立成育医療研究センター勤務、2015年:社会医療法人財団石心会川﨑幸病院勤務、2022年:慶応義塾大学医学部HTA公的分析研究室特任研究員、2023年:野中腰痛クリニック勤務・研修を経てライセンス獲得


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