はじめに
コロナ禍から日常を取り戻しつつある昨今ですが、未だ中国からの入国者に対して厳しい水際対策が実施されています。しかし、最近になって日増しに中国人患者様からのお問い合わせが増えてきており、私も海外担当チームも嬉しくも慌ただしい日々が続いております。さて、ここで改めて今回の疑問です。2018年にクリニックを開院してから、海外の患者様の中で中国人患者様が圧倒的に多い傾向にありました。なぜ当院の椎間板再生治療にこれほど興味があるのか、当初は理解できませんでした。しかし、多くの患者様とコミュニケーションをとっていくことでその疑問が解けていきました。
今回は、なぜ中国の方に当院の椎間板再生治療(ディスクシール治療・Discseel® Procedure)が人気なのか?についてお話したいと思います。
結論
現在、中国における腰痛治療のスタンダードは脊椎固定術です。中国では足の神経痛が無い場合にもボルトを埋め込む固定術が勧められるそうですので、当院の椎間板再生治療(ディスクシール治療・Discseel® Procedure)のように「切開しないため身体への負担が少ない」「1日の治療で完結」「治療後翌日より日常生活可能」「ご高齢でも治療可能」というポイントが高く評価され、人気になっているようです。
腰痛と股関節痛の関連を示す根拠
当初、この情報(神経痛が無くても固定術を施術する)に衝撃を受けました。天然由来成分の漢方薬を世界に捧げた中国の医療がこのようになっているとはなかなか信じ難い状況でしたので、文献など調べてみたところ、その原因が分かりました。
2020年Journal of Spine誌に掲載された論文記事によると、内視鏡手術の前身である関節鏡下顕微椎間板切除術 (AMD) が、1980 年代に日本、ドイツ、アメリカで導入されました。少し遅れて、1990 年代に中国でも導入されましたが、なぜか2010年まで広く使わることはありませんでした。しかし2010年以降は一転し、中国で内視鏡脊椎手術に関するシンポジウムがいくつも開催され、内視鏡脊椎手術は活況を呈することになります。
経済成長と共に医療発展国を追いつこうとしている中国は、医療技術に反して外科的手術を押しすぎている需要と供給のアンバランスな現象が起こっているではないかと思われます。その成果は数字でも表れており、現在のペースで治療件数が増えれば、2013年の約46,000件だった脊椎外科手術の治療件数は、2020年には146,000件まで増加する見込みとなっています。つまり7年という短期間で3倍以上の治療件数を弾き出す予測です。
参考としてアメリカで実施された椎間板切除術と固定術の件数は、2020年で153,288件でした。もちろん、米国の人口は、中国の人口の5分の1にすぎないことを念頭に置いても、中国で行われる外科手術の急増化は、医師が積極的に外科的治療を勧めていることの結果と考えられます。
腰痛治療の新たな選択肢
外科的治療(固定術)を受ける方がほとんどにも関わらず、なぜ中国人患者は非侵襲的治療や低侵襲治療を受ける傾向があるでしょうか? 実は中国には昔から可能な限り外科的手術を避ける文化が有ります。自然由来の漢方が広まったこともその思想があるのではないでしょうか。現在、中国の国内において再生治療はあまり広まっていないため、保存治療の効果が見込めない場合の選択肢が少なく、結果として、経済的な余裕がある方は当院の椎間板治療など、海外の最先端医療技術へ目を向けることになるのではないかと推察します。
まとめ
中国の腰痛治療は医療先進国と比べてもかなり遅れていると考えられます。当院が提供する椎間板修復治療(ディスクシール治療・Discseel® Procedure)は、腰痛に苦しむ中国人患者様のニーズに合致した結果、日々お問い合わせいただいているのではないかと思います。今後、入国が緩和された際は、どれくらいの海外患者様がお越しになるのでしょうか?当院としましても、国内の患者様を疎かにせず、医療体制を整備して参ります。
参考文献参照元
①Endoscopic spine surgery in China: its evolution, flourishment, and future opportunity for advances - 2019 - Peng Xiu, Xifeng Zhang - Journal of Spine Surgery (Volume 6, Issue 1, P S49-S53)
②Trends of surgical treatment for spinal degenerative disease in China: a cohort of 37,897 inpatients from 2003 to 2016 - 2019 - Yan Li, Si Zheng, Yunxia Wu, Xiaoguang Liu, Gengding Dang, Yu Sun, Zhongqiang Chen, Jiayang Wang, Jiao Li, Zhongjun Liu - Clinical Interventions in Aging (Volume 15, Issue 14, P 361-366)
③High prevalence of osteoporosis in patients undergoing spine surgery in China - 2021 - Xiaoyi Mo, Shengli Zhao, Zhenxing Wen, Wei Lin, Zhipeng Chen, Zhiyun Wang, Chen Huang, Jie Qin, Jie Hao, Bailing Chen - BMC Geriatrics (Volume 21, Issue 1, P 361)
④China Orthopedic Medical Device Industry - 2018 - CHINA MED DEVICE
参考文献のリンク
①Endoscopic spine surgery in China: its evolution, flourishment, and future opportunity for advances
②Trends of surgical treatment for spinal degenerative disease in China: a cohort of 37,897 inpatients from 2003 to 2016
③High prevalence of osteoporosis in patients undergoing spine surgery in China
④China Orthopedic Medical Device Industry
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任