目次
はじめに
手術はどんなに小さなものでも、どんなに簡単なものでも常に何らかのリスクを伴います。これらのリスクがどの程度有害であるかは、患者様の健康状態や手術の種類など、様々な要因で決まります。特に手術中のリスクや有害事象の可能性に影響を及ぼす要因として、患者様の年齢が挙げられます。
今日は80代以上の高齢患者様が腰椎手術を受ける際に直面するリスクに関してお話したいと思います。
結論
手術の技術や器具、全身麻酔など医療は過去10年間と比較しても大幅に改善され、高齢患者様の脊椎手術がより安全になりました。しかし、その他の年齢グループに比べると、外科手術後の長期入院や死亡、合併症のリスクの確率が高くなるということは否定できません。
高齢患者の手術が高リスクなわけ
2003–2015 at Tan Tock Seng Hospital(2003–2015年)
この研究では、脊椎手術を受けた合計47名(男性19名・女性28名・平均年齢83.3歳)の高齢患者を最低2年間の追跡調査を行いました。これらの患者は、真性糖尿病、高血圧、高脂血症、心疾患、肺疾患、および脳卒中などの1つ、または複数の併存疾患を有しており、脊椎手術による平均入院期間は24.6日、平均追跡期間は27.7ヵ月でした。脊椎手術を受けた高齢患者を30日、6ヵ月、1年、2年と追跡した結果、全体の術後死亡率は、それぞれ 2.1%、8.5%、10.6%、12.8%でした。47名のうち6名の患者が死亡し、5名の死因が肺炎でした。全体の術後の罹患率は48.9%で、そのうち17%に重大な合併症が確認されました。
以上のことにより、80歳以上の患者の脊椎手術後の死亡率および罹患率は決して低くなく、適切な治療を選択することが必要であり、外科医は複数の併存疾患、非退行性疾患、椎体骨折などの危険因子を持つ患者の手術には注意すべきである。
Neurosurgical Focus(2015年)
この研究では、26名の患者(平均年齢87歳)の73%が固定術を受けました。平均追跡期間は41.9ヵ月、最短で24ヶ月で最終追跡時に全員が生存していました。平均出血量は142±184mlで、手術時間は183.3±80.6分でありました。歩行機能は改善が見られましたが、4人の患者に5つの合併症(19.2%)が確認されました。合併症のうち2つは重大、3つは軽微でしたが、4つは一時的、1つは永続的なものでした。発症した患者に共通していた問題として、手術時間が180分以上要したことがこの問題を引き起こしたのではないかと考えられます。
80代以上の方に対する脊椎固定術は、術前の選択に十分な注意を払えば安全に行うことができますが、手術時間が長くなると合併症のリスクが高くなります。
Journal of Neurosurgery: Spine(2019年)
本研究は、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医の所属する北海道内7施設で270例(男性109例、女性161例、平均年齢83.2歳)を対象に行われました。術前後の合併症は、術中または術後30日以内に発生した有害事象と定義されました。全身合併症は急性冠症候群、心不全、脳血管障害、肺炎、静脈 血栓症、新規の透析を要する腎機能障害、消化管出血、腸閉塞、腹 腔内感染症等、いずれも発症せず、本研究期間中の重症全身合併症の発症亡はありませんでした。本研究では80歳以上の高齢者への脊椎手術において術後合併症は20.0%生じており、手術部位合併症は8.1%、軽症全身合併症は14.8%に発症が見られたものの、重症全身合併症は角煮されませんでした。また再手術率も4.1%と低いものであり、周術期死亡例も見られませんでした。
Journal of the American Geriatrics Society(2015年)
本観察研究の対象となったのは、脊椎手術を受けた70歳以上の成人89名でした。そのうち36名(40.5%)が脊椎手術後に譫妄(せんもう)を発症し、17名(47.2%)が純粋に低活動性の特徴を有していました。高齢者は術後譫妄のリスクが特に高く、手術を受ける高齢者の数が増加していることから、術後譫妄の有病率と潜在的な影響は今後も増加すると考えられます。術後譫妄は、入院期間の延長や費用の増加、自宅退院の確率の低下と関連していました。
まとめ
腰の外科手術は常にリスクを伴い、特に高齢の患者様には効果が得られない可能性があります。特に年配の患者様は、若い人ほど簡単に動いたり運動したりできないため、回復が遅くなり、体調を崩す可能性があります。理学療法や薬物療法など、身体への負担が少ない治療を尽くしてから外科手術を検討することをお勧めします。また、当院が行っている低侵襲治療であるディスクシール治療(Discseel® Procedure)なども検討して頂けると幸いです。
参照元
①The safety profile of lumbar spinal surgery in elderly patients 85 years and older - 2015 - Michael Y Wang, Gabriel Widi, Allan D Levi - Neurosurgical Focus (Volume 39, Issue 4)
②Perioperative complications of spine surgery in patients 80 years of age or older: a multicenter prospective cohort study - 2019 - Takamasa Watanabe, Masahiro Kanayama, Masahiko Takahata, Itaru Oda, Kota Suda, Yuichiro Abe, Junichiro Okumura, Yoshihiro Hojo, Norimasa Iwasaki - Journal of Neurosurgery: Spine (Volume 17, P 1-9)
③Delirium after Spine Surgery in Older Adults: Incidence, Risk Factors, and Outcomes - 2016 - Charles H Brown, Andrew LaFlam, Laura Max, Julie Wyrobek, Karin J Neufeld, Khaled M Kebaish, David B Cohen, Jeremy D Walston, Charles W Hogue, Lee H Riley - Journal of the American Geriatrics Society (Volume 64, Issue 10, P 2101-2108)
④Surgical outcomes in the elderly with degenerative spondylolisthesis: comparative study between patients over 80 years of age and under 80 years—a gender-, diagnosis-, and surgical method-matched two-cohort analyses - 2018 - Jen-Chung Liao, Wen-Jer Chen - Spine Journal (Volume 18, Issue 5, P 734-739)
⑤Complications and mortality following 1 to 2 level lumbar fusion surgery in patients above 80 years of age - 2017 - Varun Puvanesarajah, Amit Jain, Adam L Shimer, Xudong Li, Anuj Singla, Francis Shen, Hamid Hassanzadeh - Spine (Volume 42, Issue 6, P 437-441)
参考文献のリンク
①The safety profile of lumbar spinal surgery in elderly patients 85 years and older
②Perioperative complications of spine surgery in patients 80 years of age or older: a multicenter prospective cohort study
③Delirium after Spine Surgery in Older Adults: Incidence, Risk Factors, and Outcomes
④Surgical outcomes in the elderly with degenerative spondylolisthesis: comparative study between patients over 80 years of age and under 80 years—a gender-, diagnosis-, and surgical method-matched two-cohort analyses
⑤Complications and mortality following 1 to 2 level lumbar fusion surgery in patients above 80 years of age
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任