概略
全ての外科的手術には感染症や麻痺などのリスクがあります。中でも脊椎手術は他の外科的治療に比べて合併症のリスクが高いく、健康状態や手術の種類によって結果が異なる可能性があります。
はじめに
脊椎手術を勧められた患者様は、「外科的治療はリスクがあるから」と不安になられます。同時に「できるだけ手術は避けたい」と考えられることが多いようです。さて、患者様が不安になるほど腰椎手術は危険なのでしょうか?
今回は、この疑問をクリアしたいと思います。
結論
答えは“YES”とも“NO”とも言えます。
全ての外科的手術にはリスクがあります。中でも脊椎手術は他の外科的治療に比べて合併症のリスクが高いことは否定できませんが、健康状態や手術の種類によって結果が異なる可能性があります。
脊椎(腰椎)手術の危険性
なぜ脊椎(腰椎)手術が危険と考えられているかと申しますと、脊椎手術は脊髄の敏感な部位やその周辺で行われるため、手術中にミスが発生した場合には麻痺や感染症が引き起こされるリスクがあるからです。しかし、重度の合併症の可能性があっても、脊椎手術の死亡率はとても低いです。International Journal of Spine Surgery (2018年)に掲載された研究では、腰椎手術患者803,949人のうち、死亡率は0.13%と報告されました。また、手術による合併症の発生率も3,475人の患者を対象とした研究では7.6%と低い数値でした。
手術の成功と失敗の割合
米国麻酔科学会によりますと、腰の手術の20~40%が失敗すると推定されており、またAsian Spine Journal(2018年) に発表された研究では、腰部手術の成功率はおよそ50%と推定されています。しかし、手術の成功率は様々な要因に左右されるため、この推定値は保守的なものです。患者様の健康状態や手術方法、痛みの原因や合併症の有無などは手術結果に影響します。手術が失敗した場合、再手術になる可能性が有り、何度も手術を繰り返すと失敗する確率がさらに高まります。上記の研究では、2回目の腰の手術のうち成功するのはわずか30%であることが分かりました。また、3回目、4回目の手術の成功率はそれぞれ15%、5%とさらに減少しています。
残念ながら脊椎手術の失敗事例は多数報告されており、手術後の腰や首、手足に痛み等の症状が続くことを脊椎手術後症候群(FBSS)と称して医学的疾患として分類されるようになりました。
まとめ
患者様の痛みに対応するための手術方法が適切でない場合、腰部手術が失敗するリスクが高くなる可能性が有ります。手術中に何らかのミスや合併症があった場合も同様です。腰部手術を検討する前に、3ヵ月程度の保存治療(理学療法や薬事療法など)を試すことをおすすめします。3ヵ月経過すると多くの腰痛は自然に緩和される可能性があるからです。しかし、保存治療しても腰痛が緩和されず苦しんでおられる場合は、外科的手術を検討する前に当院で椎間板再生治療など相談されることをお勧めします。
参考文献参照元
①Rates of Mortality in Lumbar Spine Surgery and Factors Associated With Its Occurrence Over a 10-Year Period: A Study of 803,949 Patients in the Nationwide Inpatient Sample - 2018 - Gregory Wyatt Poorman, John Y Moon, Charles Wang, Samantha R Horn, Bryan M Beaubrun, Olivia J Bono, Anne-Marie Francis, Cyrus M Jalai, Peter G Passias - International Journal of Spine Surgery (Volume 12, Issue 5, P 617-623)
②Failed Back Surgery Syndrome: A Review Article - 2018 - James R Daniell, Orso L Osti - Asian Spine Journal (Volume 12, Issue 2, P 372-379)
③Interventional pain management for failed back surgery syndrome - 2014 - Arif Hussain, Michael Erdek - Pain Practice (Volume 14, Issue 1, P 64-78)
④Treatment Options for Failed Back Surgery Syndrome Patients With Refractory Chronic Pain: An Evidence Based Approach - 2017 - Kasra Amirdelfan, Lynn Webster, Lawrence Poree, Vishad Sukul, Porter McRoberts - Spine (Volume 42, Issue 14, P S41-S52)
⑤Failed Back Surgery Syndrome - 2011 - Chin-wern Chan, Philip Peng - Pain Medicine (Volume 12, Issue 4, P 507-606)
参考文献のリンク
①Rates of Mortality in Lumbar Spine Surgery and Factors Associated With Its Occurrence Over a 10-Year Period: A Study of 803,949 Patients in the Nationwide Inpatient Sample
②Failed Back Surgery Syndrome: A Review Article
③Interventional pain management for failed back surgery syndrome
④Treatment Options for Failed Back Surgery Syndrome Patients With Refractory Chronic Pain: An Evidence Based Approach
⑤Failed Back Surgery Syndrome
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任