精神療法で腰痛緩和は可能? 序論

目次

はじめに

腰痛は3ヵ月以上続くと慢性化すると言われています。一時的に楽になったと思ったらすぐに再発したりと症状が行ったり来たりします。慢性的な腰痛は原因がわからないため、対処するのが極めて難しいです。慢性腰痛に悩まされている方にとって、身体的にも精神的にも負担が大きいので、症状を和らげるために様々な方法を試して自分に合っているもの見つけることが大事です。そんな中、精神療法が慢性腰痛に効くという情報をネットで見かけられた患者様に意見を求められました。私の専門ではないのですぐに答えることはできませんでしたが、気になったので調べてみました。
今回は、精神療法で腰痛緩和は可能なのか?についてお話したいと思います。


結論

精神療法が腰痛を緩和する方法として人気を集めているのは事実です。しかし、精神療法による痛みの軽減効果については、研究により結果が異なっています。精神療法は、痛みを認識する脳の領域を活性化すると示唆している研究が有りますが、治療効果としては弱いようです。


精神療法について

日本マインドフルネス学会によれば、マインドフルネス精神療法とは"今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること"と定義されています。また、ある海外論文の表現を借りれば"気付きを高め、身体的な不快や辛く苦しい感情を含む、その瞬間、その瞬間ごとの体験を受容することに集中する"と表現されています。


精神療法と腰痛の研究

Noninvasive Treatments for Low Back Pain(2016年)

米国医療研究品質局(AHRQ)によれば、精神療法は様々な治療で試みられてはいるものの、その疼痛減弱効果は十分ではなく、機能回復効果は更に劣ると報告されている。

Annals of Behavioral Medicine(2017年)

慢性疼痛患者をマインドフルネス精神療法治療または対症療法のいずれかに無作為に振り分け調査をしました。調査の結果は、マインドフルネス精神療法が慢性腰痛、うつ病、および生活の質の改善につながることを示唆されました。しかし、一連のエビデンスの弱点 (例えば、研究結果の不一致、多数の質の低い研究など) が、この結論を妨げています。


まとめ

慢性的な腰痛は、身体的にも精神的にも負担が大きいものです。慢性的な痛みに対処するためのイライラなどの心理的な側面を管理するために、リハビリテーション心理士を紹介されることもあります。精神療法で慢性腰痛を完治することは出来ませんが、患者様を精神的に支える効果があるので、個人的に合っていると考えておられるなら利用するのが良いと思います。また、慢性的腰痛の原因は特定することが困難な場合もあり、精神療法では痛みが治まらないだけでなく、さらなる症状悪化の可能性もありますので注意しましょう。

精神療法で腰痛緩和は可能? 結論

参考文献参照元

①Mindfulness Meditation for Chronic Pain: Systematic Review and Meta-analysis - 2017 - Lara Hilton, Susanne Hempel, Brett A Ewing, Eric Apaydin, Lea Xenakis, Sydne Newberry, Ben Colaiaco, Alicia Ruelaz Maher, Roberta M Shanman, Melony E Sorbero, Margaret A Maglione - Annals of Behavioral Medicine (Volume 51, Issue 2, P 199-213)
②Does mindfulness meditation improve chronic pain? A systematic review - 2017 - Elizabeth F Ball, Emira Nur Shafina Muhammad Sharizan, Genny Franklin, Ewelina Rogozińska - Current Opinion in Obstetrics and Gynecology (Volume 29, Issue 6, P 359-366)
③Effects of Mindfulness Meditation on Chronic Pain: A Randomized Controlled Trial - 2015 - Peter la Cour, Marian Petersen - Pain Medicine (Volume 16, Issue 4, P 641-52)
④Mindfulness meditation–based pain relief: a mechanistic account - 2016 - Fadel Zeidan, David R Vago - Annals of the New York Academy of Sciences (Volume 1373, Issue 1, P 114-27)
⑤"I felt like a new person." the effects of mindfulness meditation on older adults with chronic pain: qualitative narrative analysis of diary entries - 2008 - Natalia E Morone, Cheryl S Lynch, Carol M Greco, Hilary A Tindle, Debra K Weiner - The Journal of Pain (Volume 9, Issue 9, P 841-8)

参考文献のリンク

Mindfulness Meditation for Chronic Pain: Systematic Review and Meta-analysis
Does mindfulness meditation improve chronic pain? A systematic review
Effects of Mindfulness Meditation on Chronic Pain: A Randomized Controlled Trial
Mindfulness meditation–based pain relief: a mechanistic account
"I felt like a new person." the effects of mindfulness meditation on older adults with chronic pain: qualitative narrative analysis of diary entries

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任