概略
椎間板変性は常に悪化するわけではありません。実際、一部の研究においては、時間経過とともに改善する可能性があることが示されています。しかし、より大きな痛みと機能低下をもたらすこともありえますので、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの合併症を防ぐためにも早期治療が重要です。
目次
はじめに
椎間板変性症と診断されますと、まるで背骨が恐ろしい病気に襲われて崩れていくようなイメージを持たれる患者様や、腰や首の慢性的な痛みは進行性のもので症状や障害がどんどん悪化し続けるのは避けられないと思い込んでしまわれる患者様がおられます。しかし、この結論は正しいのでしょうか?
今回は、椎間板変性の病状や進行について論文による研究報告を基に改めてお話ししたいと思います。
結論
椎間板変性の「必ず悪化していく」といった主張は事実と異なります。
椎間板変性とは
年齢を重ねるごとに椎間板の水分量は減少し、中心部分となっている髄核及び外側にある線維輪という部分が固くなっていきます。これにより椎間板のクッション機能が低下し、線維輪に傷が入りやすくなってしまいます。線維輪に傷が入ると、髄核が椎間板外に漏れ、神経根の圧迫や炎症の原因となって痛み麻痺が生じます。このように髄核や線維輪が硬くなっていく病気が椎間板変性症と言います。
患者様は、椎間板変性症と診断されると自分の病状は必ず進行して、さらにひどい痛みや障害が生じるのではないかと悪い方向へ思い込んでしまわれる方が多く見られます。では、椎間板変性症の進行により身体にどんな変化が起こっているのか、時間の経過とともにどうなるのかを研究論文を確認してみましょう。
椎間板変性の研究
Annals of the Rheumatic Diseases(1991年)
45歳以上の女性742名を対象として行われた研究で、8〜11年間を追跡したところ、椎間板変性症が必ず進行するわけではないという結果が報告されました。研究によると、腰痛持ちの女性60%と腰痛のない女性30%で椎間板変性症が進行していましたが、残りの腰痛持ちの女性40%と腰痛のない女性70%に関しては、椎間板変性症が進行していないことが明らかになりました。
Neurology(1991年)
日本の研究で、腰椎の椎間板ヘルニア患者32名を1年間追跡調査しました。その結果、62%の椎間板ヘルニアは自然に小さくなり、残りの38%のヘルニアは悪化しないことがわかりました。この研究によると、椎間板ヘルニアは、ほとんどの場合良くなる傾向があることがわかります。また、椎間板ヘルニアが改善しない場合でも、悪化することはありませんでした。この研究で椎間板ヘルニアは必然的に変性するわけではないことが分かりました。
Spine(2011年)
腰椎終板変性のある患者をMRI検査で2つのグループに分けた比較研究が行われました。第一のグループは、終板変性が最小レベルの患者36人で、もう1つのグループは、終板変性がより進行した22人の患者でした。追跡期間中、終板の変化があまり大きくない第1グループの内、半数は変化がなく、もう半数は悪化し、2名は元に戻ったことが分かりました。より進行した変化を持つ第二のグループでは、ほとんどが変わらず、何人かは良くなり、誰も悪くならなかったという結果でした。
Skeletal Radiology(2013年)
この研究は、腰椎椎間板L4/L5とL5/S1のいずれかで椎間板置換手術(脊椎固定術)が推奨された170人の腰痛患者を対象として、椎間板変性症が痛みおよび障害と相関するかどうかを調べられたものです。椎間板変性症は、手術を勧められるほど深刻でしたが、興味深いことに、椎間板変性症と痛みや障害との間に有意な相関関係は全く見られませんでした。最も重度の変性を持つ人のグループであっても、椎間板変性と痛みや障害との間に因果関係は発見されませんでした。
まとめ
椎間板変性症は必ず悪化するという科学的な証拠はありません。しかし、わずかな椎間板変性であっても、より大きな痛みと機能低下をもたらすこともありえます。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった疾患との合併症を引き起こしたり、外科的手術が避けられない状態になったりしないよう、早期に治療をしていきましょう。
参考文献参照元
①A longitudinal study of back pain and radiological changes in the lumbar spines of middle aged women. I. Clinical findings. - 1991 - D P Symmons, A M van Hemert, J P Vandenbroucke, H A Valkenburg - Annals of the Rheumatic Diseases (Volume 50, Issue 3, P 158-61)
②Serial changes on MRI in lumbar disc herniations treated conservatively - 1995 - Y Matsubara, F Kato, K Mimatsu, G Kajino, S Nakamura, H Nitta - Neurology (Volume 37, Issue 5, P 378-83)
③Modic vertebral body changes: the natural history as assessed by consecutive magnetic resonance imaging - 2011 - Michael J Hutton, Jens H Bayer, John M Powell - Spine (Volume 36, Issue 26, P 2304-7)
④Pathophysiology and natural history of cervical spondylotic myelopathy - 2013 - Spyridon K Karadimas, W Mark Erwin, Claire G Ely, Joseph R Dettori, Michael G Fehlings - Spine (Volume 38, Issue 22, P S21-36)
⑤Do more MRI findings imply worse disability or more intense low back pain? A cross-sectional study of candidates for lumbar disc prosthesis - 2013 - Linda Berg, Christian Hellum, Øivind Gjertsen, Gesche Neckelmann, Lars Gunnar Johnsen, Kjersti Storheim, Jens Ivar Brox, Geir Egil Eide, Ansgar Espeland; Norwegian Spine Study Group - Skeletal Radiology (Volume 42, Issue 11, P 1593-602)
参考文献のリンク
①A longitudinal study of back pain and radiological changes in the lumbar spines of middle aged women. I. Clinical findings.
②Serial changes on MRI in lumbar disc herniations treated conservatively
③Modic vertebral body changes: the natural history as assessed by consecutive magnetic resonance imaging
④Pathophysiology and natural history of cervical spondylotic myelopathy
⑤Do more MRI findings imply worse disability or more intense low back pain? A cross-sectional study of candidates for lumbar disc prosthesis
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任