概略
一般的に良い姿勢とは、耳・肩・腰・膝・くるぶしが一直線になる状態のことと定義されています。反対に、背中が丸まった座り姿勢や立ち方は悪い姿勢とされています。しかし姿勢の良し悪しと腰痛に相関性はなく、良い姿勢が腰痛を予防するというようなエビデンスはありません。
目次
はじめに
ほとんどの人は、幼い頃からご両親や年配の方から「まっすぐに座りなさい」「猫背はやめなさい」と言われたことがあると思います。また良い姿勢を保つことは、腰痛の予防や背骨の健康に繋がると考えられておられるかもしれません。では、実際に良い姿勢が腰痛の発症にどれほど関係しているのでしょうか?
今回は姿勢と腰痛に関してお話ししたいと思います。
結論
腰痛と姿勢の悪さは関係ありません。
長時間同じ姿勢で座っていたり、立っていたりすると、腰が不快に感じ始めることがあるので、この結論は信じがたいかもしれません。また、良い姿勢は背骨を損傷から守り、腰痛を予防・改善できるという考え方があります。良い姿勢とは、一般的に「直立して座る」「背中を伸ばして直線に立つ」「背筋を伸ばしながらスクワットして物を持ち上げる」ことと定義されています。逆に、「だらしない座り方」「前かがみの立ち方」「背中を丸めた姿勢で物を持ち上げること」はよく注意されることです。このような考え方は、腰痛のある人もない人も、臨床医でも広く持っているものです。しかし、良い姿勢と腰痛の間に強い関係があることを示す証拠はないのです。
腰痛と姿勢に関する報告
Spine(2006年)
比較調査の報告によると、うつむいた姿勢の人も直立した姿勢の人も腰痛になる可能性があると証明しています。
J Orthop Sports Phys Ther(2009年)
研究によると、人間は日常生活の中にさまざまな背骨の姿勢を採用しており、単一の姿勢で腰痛を防ぐことはできないことを主張しています。
J Orthop Sports Phys Ther(2020年)
系統的レビューでは、背中を丸めた姿勢で物を持ち上げることが腰痛と関連する、あるいは腰痛を予測する根拠は見つからなかったと発表しました。
まとめ
人間の身体は動くように作られていますので、長い時間動かさないと違和感が生じます。腰の違和感は腰椎、筋肉等組織がすでに破損されているわけではありません。一日の大半をデスクワークで過ごしている方は、定期的に身体を動かして腰をリラックスすることを忘れないでください。腰の違和感が悪化したり、症状が3週間以上続いている場合は専門医と相談することをお勧めします。
参考文献参照元
①Association of biopsychosocial factors with degree of slump in sitting posture and self-report of back pain in adolescents: a cross-sectional study - 2011 - Peter B O'Sullivan, Anne J Smith, Darren J Beales, Leon M Straker - Physical Therapy (Volume 91, Issue 4, P 470-83)
②"Sit Up Straight": Time to Re-evaluate - 2019 - Diane Slater, Vasileios Korakakis, Peter O'Sullivan, David Nolan, Kieran O'Sullivan - Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (Volume 49, Issue 8, P 562-564)
③Differences in sitting postures are associated with nonspecific chronic low back pain disorders when patients are subclassified - 2006 - Wim Dankaerts, Peter O'Sullivan, Angus Burnett, Leon Straker - Spine (Volume 31, Issue 6, P 698-704)
④To Flex or Not to Flex? Is There a Relationship Between Lumbar Spine Flexion During Lifting and Low Back Pain? A Systematic Review With Meta-analysis - 2020 - Nic Saraceni, Peter Kent, Leo Ng, Amity Campbell, Leon Straker, Peter O'Sullivan - Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (Volume 50, Issue 3, P 121-130)
参考文献のリンク
①Association of biopsychosocial factors with degree of slump in sitting posture and self-report of back pain in adolescents: a cross-sectional study
②"Sit Up Straight": Time to Re-evaluate
③Differences in sitting postures are associated with nonspecific chronic low back pain disorders when patients are subclassified
④To Flex or Not to Flex? Is There a Relationship Between Lumbar Spine Flexion During Lifting and Low Back Pain? A Systematic Review With Meta-analysis
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任