概略

腰痛に対しては安静よりも活動性維持(運動)のほうが有用です。長期の安静は筋肉の強度と柔軟性を失い、症状悪化の可能性があることが研究で指摘されています。活動的な生活を送ることは腰痛を和らげ、発作や再発を防ぐことが出来ます。


安静と運動はどちらが腰痛に効く? 序論

目次

はじめに

「先生……2ヵ月程ずっと安静しているのに腰痛はなかなか改善されません。時々悪化している気さえします。治療が失敗しているでしょうか?」と60代の女性患者様が心配そうに来院されました。急性腰痛の場合、医師は数日間の安静を勧めますが、安静にし過ぎてしまうと改善が遅くなることもあります。
今回は安静と運動はどちらが腰痛に効くのか?お話ししたいと思います。


結論

急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持(運動)のほうが有用である。
(腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版 参照)


医学的根拠

基本として、腰痛の激しい時や術後の場合に身体を無理やりに動かすことは勧められません。しかし、多くの研究が長期の安静を避け、活動的に過ごすことが痛みの緩和や再発防止に役立つことを主張します。

European Spine Journal

2005年の系統的レビューでは13ヵ国の腰痛診療ガイドラインを比較し、「痛みが強くても安静を控える」や「2日以上の安静は有害」とするものまで様々な勧告が報告されています。このように安静より運動を推奨するのは、急性腰痛症患者に対して活動的に過ごすようアドバイスすることで短期的にも長期的にも症状や機能が改善されるという一貫したエビデンスがあるからです。
また、2010年の同誌による別の系統的レビューによると、腰痛の管理に関する国際的な臨床ガイドラインを比較した結果、診断と治療の推奨事項は概ね類似していることが示されており、そのほとんどが腰痛のためのエクササイズを推奨していました。


長時間の安静が腰痛を悪化させる原因

腰痛の多くは、背中の筋肉や靭帯、関節の歪みに関連しており、非常に痛いもののそれほど深刻なものではありません。しかし、筋肉は使わなければ数日でその強度と柔軟性を失い、痛みが増し、組織を再び傷つける可能性があることが研究で指摘されています。長期間動かずにいると、1週間あたり最大20~30%の筋力が低下し、身体の弱さや硬さにより痛みが落ち着くと日常生活に戻ることがより困難になります。

長い安静による運動不足は、脊椎の構造を変化させ、筋骨格系に大きな影響を与える可能性があります。その結果、以下のようなことが発生する可能性があります。

  • 背骨の異常な伸長
  • 脊椎筋組織の萎縮
  • 椎間板の高さと面積の増加
  • 椎間板の組成の変化

安全に活動性を維持する方法

その答はアクティブレストです。アクティブレストとは、重いものを持ったり、ジョギングをしたりといった腰痛を悪化させるような行為を避け、我慢できる範囲で体を動かし続けることです。これは適切なストレッチやエクササイズと一緒に行うことができます。痛みのない快適な姿勢を見つけ、動き続けることができるのであれば、安静は全く必要ないことが勧められています。もし痛みがひどい場合は、1~2日程度安静にしても問題ありません。


まとめ

腰痛をお持ちの方は、長期間の安静を避け、活動的な生活を送ることで痛みを和らげ、発作や再発を防ぐことが出来ます。活動的になるには、必ずしも強い衝撃を与えるような運動をする必要はありません。負荷の少ない運動から始めることで、疲労を軽減しながら徐々に筋力と脊椎の安定性を高めることができます。
急性腰痛の場合は、新しい運動プログラムを始める前に医師や理学療法士に相談することをお勧めします。また、運動中に鋭い痛みを感じた場合は、すぐに中止して医師に相談してください。

安静と運動はどちらが腰痛に効く? 結論

参考文献参照元

①A critical review of guidelines for low back pain treatment - 2006 - Josep M. Arnau, Antoni Vallano, Anna Lopez, Ferran Pellisé, Maria J. Delgado, Nuria Prat - European Spine Journal (Volume 15, Issue 5, P 543–553)
②Chronic back pain: does bed rest help? - 2000 - Michael S Wilkes - The Western Journal of Emergency Medicine (Volume 172, Issue 2, P 121)
③An updated overview of clinical guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care - 2010 - Bart W Koes, Maurits van Tulder, Chung-Wei Christine Lin, Luciana G Macedo, James McAuley, Chris Maher - European Spine Journal (Volume 19, Issue 12, P 2075-94)
④Advice to rest in bed versus advice to stay active for acute low-back pain and sciatica - 2010 - Kristin Thuve Dahm, Kjetil G Brurberg, Gro Jamtvedt, Kåre Birger Hagen - Cochrane Database of Systematic Reviews (Volume 16, Issue 6)
⑤The cochrane review of advice to stay active as a single treatment for low back pain and sciatica - 2002 - Kåre B Hagen, Gunvor Hilde, Gro Jamtvedt, Michael F Winnem - Spine (Volume 27, Issue 16, P 1736-41)
⑥Moderate quality evidence that compared to advice to rest in bed, advice to remain active provides small improvements in pain and functional status in people with acute low back pain. Evidence-Based Medicine. - 2010 - Bart Koes - Evidence Based Medicine (Volume 15, Issue 6, P 171-2)
⑦Acute Lumbar Back Pain - 2016 - Hans-Raimund Casser, Susann Seddigh, Michael Rauschmann - Deutsches Arzteblatt international (Volume 113, Issue 13, P 223-34)
⑧The association between physical activity and low back pain: a systematic review and meta-analysis of observational studies - 2019 - Hosam Alzahrani, Martin Mackey, Emmanuel Stamatakis, Joshua Robert Zadro, Debra Shirley - Scientific Reports (Volume 9, Issue 1, P 8244)

参考文献のリンク

A critical review of guidelines for low back pain treatment
Chronic back pain: does bed rest help?
An updated overview of clinical guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care
Advice to rest in bed versus advice to stay active for acute low-back pain and sciatica
The cochrane review of advice to stay active as a single treatment for low back pain and sciatica
Moderate quality evidence that compared to advice to rest in bed, advice to remain active provides small improvements in pain and functional status in people with acute low back pain. Evidence-Based Medicine.
Acute Lumbar Back Pain
The association between physical activity and low back pain: a systematic review and meta-analysis of observational studies

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任