すべり症と脊柱管狭窄症は、腰から足にかけての痛みやしびれ、歩行困難などの症状が似ていますが原因は異なります。すべり症の原因は腰骨のずれによる神経の圧迫であり、脊柱管狭窄症の原因は脊柱管の狭窄による神経の圧迫です。すべり症と脊柱管狭窄症の治療法は保存的なものと外科的なものがあります。保存的治療は、薬物や理学療法などで症状を和らげる方法です。外科的手術は、手術で神経の圧迫を解除する方法です。いずれの疾患も自然に治ることはありません。


目次

すべり症と脊柱管狭窄症の主な症状の違いと共通点

すべり症の症状は、少しの距離を歩くだけでお尻から足にかけて痛みやしびれを感じます。間欠性跛行(かんけつせいはこう)といった、歩行制限の症状が出る場合もあります。また、腰骨の後ろを通る神経の通り道が、腰骨のずれによって圧迫されると脊柱管狭窄症と同様の症状がみられます。脊柱管狭窄症の症状は、腰から足にかけての痛みやしびれを感じます。神経の圧迫が強くない初期の場合だと、普段は症状を感じず、歩くなど体を動かしたときにだけ症状を感じることがあります。すべり症と同様で、間欠性跛行(かんけつせいはこう)といった、歩行制限の症状が出る場合もあります。

間欠性跛行とは

間欠性跛行とは、しばらく歩いていると腰や足に痛みやしびれを感じ、歩けなくなることです。立ち止まったり、しゃがんだりすることにより再び歩くことが出来ます。腰を丸くすることで、神経への負担が少なくなると言われています。すべり症や脊柱管狭窄症の方で、「スーパーマーケットのカートを押すと、歩き続けられる」「自転車には長い時間乗ることが出来る」など仰る方ことが多いですが、上記の理由が考えられます。


すべり症と脊柱管狭窄症の治療方法とは

治療方法は、「保存療法」と「外科的手術」の2種類に分けることが出来ます。保存療法とは、お薬やリハビリテーションなど手術以外の治療方法です。外科的手術とは、その名の通りメスを使用するオペのことです。

すべり症と脊柱管狭窄症の保存療法

  • 内服薬……痛みを抑える鎮痛作用のあるお薬を服用することにより、痛みを和らげます。
  • ブロック注射……神経を包む膜や、神経の周りに注射を打つことにより、痛みを和らげます。
  • コルセット……不安定な腰椎にコルセットを巻くことにより、安定させ、痛みを和らげます。
  • リハビリテーション……筋力トレーニングを行い腰椎を支える筋力を強化することで、安定させ、痛みを和らげます。

保存療法の良い点は、リスクが少なく、気軽に始めることが出来ることです。ただ、根本治療ではございませんので、すべり症や脊柱管狭窄症が完治することはありません。

すべり症の外科的手術

すべり症の外科手術は大きく2つに分けることが出来ます。それぞれ特徴、リスクについてご説明いたします。

  • 腰椎後方除圧術……神経を圧迫している椎弓<脊椎の一部>、靭帯や関節突起<腰の骨の出っ張り>の一部を取り除く手術となります。内視鏡で必要部分のみを切除する方法(部分椎弓切除術)と広範囲に追及を切除する方法(広範囲椎弓術)があります。部分椎弓切除術の場合、術後約2-5日で歩行ができ、2週間ほどで退院となります。切開の範囲が狭いメリットはありますが、その分視野も狭くなるので椎骨が安定していない場合など重度の場合は手術適応外になることがあります。広範囲椎弓術の場合は、そのようなデメリットはありませんが、切開範囲が広いのでその分感染症や合併症のリスクは高くなります。また、一度広範囲に切除した場合は、再手術が出来ないことがあります。後遺症としては、神経や血管を傷つけることによる下肢の痛みやしびれの出現、膀胱直腸障害といった尿や便のトラブル、細菌感染が起こり化膿することなどが考えられます。全身麻酔を行い、皮膚を切開するのでお身体の負担は大きくなります。
  • 脊椎固定術……椎骨<腰の骨>を安定させるためには、脊椎固定術が適応となります。プレート、スクリュー、ロッド、スペーサーといった医療器具を使って脊椎を固定する方法です。椎弓(脊椎の一部)や椎間関節、椎間板や黄色靭帯を切除します。椎間板の代わりにスペーサーを挿入し、プレートをセットしロッドやスクリューで固定します。術後はリハビリが必要なため1か月ほどの入院期間が必要です。メリットとしては、腰椎の不安定性があり痛みが激しい場合でも適応となることです。骨を削り神経の通り道を広げることで症状の回復が期待できます。一方デメリットは、切開範囲が広く、手術時間も長いため、感染症、合併症などのリスクが内視鏡手術に比べると高くなります。固定を行うので、体を動かす際の違和感などを感じることも考えられます。全身麻酔を行い、皮膚を切開するのでお身体の負担は大きくなります。後遺症としては腰椎後方除圧術同様に、神経や血管を傷つけることによる下肢の痛みやしびれの出現、膀胱直腸障害といった尿や便のトラブル、細菌感染が起こり化膿することなどが考えられます。

脊柱管狭窄症の外科的手術

脊柱管狭窄症の外科手術は大きく2つに分けることが出来ます。それぞれ特徴、リスクについてご説明いたします。

  • 腰椎椎弓切除術……狭くなった脊柱管<骨のトンネル>を広げる手術方法です。広範囲に椎弓(脊椎の一部)を切除する広範囲椎弓切除術と、内視鏡下で行う必要な部分だけ手術を行う部分椎弓切除術があります。 広範囲椎弓切除術の場合、骨から筋肉を剥がし腰椎椎弓を切除し、狭窄の原因となる分厚くなった黄色靱帯を取り除きます。内視鏡下で行う部分椎弓切除術の場合、手術器具を体内に入れ、カメラで体内の様子をモニターで確認しながら椎弓の一部と靭帯を取り除きます。メリットは、傷口が小さく約1週間ほどで退院ができます。デメリットは、部分椎弓切除術の場合、いくつも狭窄がある場合や腰骨が安定していない場合は手術の適応外となります。また、広範囲椎弓切除術の場合、切開範囲が広くなるため感染症や合併症のリスクが高くなります。さらに、一度広範囲に切除した場合は再手術が出来ないこともあります。
  • 脊椎固定術……プレート、スクリュー、ロッドやスペーサーといった医療器具を用いて脊椎を固定させる手術方法です。全身麻酔を行い、背中から皮膚を切開します。椎弓(脊椎の一部)や椎間関節(腰の関節)を切除して、椎間板(腰のクッション)や黄色靭帯(腰の靭帯)を切除します。椎間板の代わりに医療器具を入れ、固定します。メリットは、腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニアや腰骨が不安定な場合など、幅広い脊椎疾患にも対応しています。デメリットは、術後はリハビリが必要なため、入院期間は約1ヵ月となります。感染症・合併症のリスクもあり、再手術が難しい手術法でもあります。

  • すべり症と脊柱管狭窄症の予防に効果のある体操

    反り腰になるとすべり症の場合は余計に骨が前にずれてしまい、脊柱管狭窄症の場合は神経が通る骨のトンネルが狭くなってしまいます。腰を丸める動きを練習し、反り腰を改善する必要があります。

    1. ベッドや椅子に座ります
    2. 足首を掴むように前かがみになります
    3. この姿勢のまま10秒キープし、腰を丸めます
    4. 元に戻り、この動きを繰り返します
    5. 1セット10回、1日2セット行います

    注意ポイント

    • 足首を掴めなくても構いません。痛みのない範囲までで結構です

    すべり症、脊柱管狭窄症の日帰りで出来る椎間板治療とは

    外科手術は、すべり症や脊柱管狭窄症に対する根本治療ですがお体への負担は大きくなります。「全身麻酔は怖い」「長期の入院はしたくない」「体にメスを入れたくない」など様々なご意見があるかと思います。 当院で行っている、DST法(ディスクシール治療法)はすべり症や脊柱管狭窄症に対して、日帰りで行える椎間板治療となります。メスを使用しないので、お体の負担は少なくご高齢の方にも治療を受けていただくことが可能です。


    すべり症と脊柱管狭窄症の違いとは?のまとめ

    すべり症とは、椎間関節<ついかんかんせつ>と呼ばれる背骨の関節が壊れてしまい、椎間板の異常により腰骨がずれてしまうことです。脊柱管狭窄症とは、神経が通っている脊柱管と呼ばれる骨のトンネルが狭くなり、狭窄することです。原因は違いますが、症状は似ています。お尻から足にかけての痛みやしびれが出現し、間欠性跛行(かんけつせいはこう)といった、歩行制限がみられます。治療方法は、保存療法と外科的手術に分類できます。保存療法とは、外科的手術以外の治療法ですべり症や脊柱管狭窄症どちらも同様の方法です。外科的手術に関しては、すべり症では椎弓(脊椎の一部)や靭帯を切除する方法と、医療器具を使用し固定する方法があります。脊柱管狭窄症では、脊柱管(骨の通り道)を広げる方法と、医療器具を使用し固定する方法があります。どちらの疾患も反り腰になると、症状が増悪します。ご自宅での体操は、反り腰を改善させることが必要となります。動画でご紹介していますので、是非お試しください。すべり症も脊柱管狭窄症も自然に完治することはありません。正確な治療には、専門医の診断が必要となります。まずは診察を受けていただくことが重要となります。


    参照先

    腰椎変性すべり症を伴う腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧術単独の中期治療成績 菅原 淳,井須 豊彦,金 景成,森本 大二郎,磯部 正則,松本 亮司,小笠原 邦昭,小川 彰 脊髄外科 2009年23巻2号 p.225-230

    引用リンク

    腰椎変性すべり症を伴う腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧術単独の中期治療成績

    この記事の著者

    医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

    医療法人蒼優会 理事長
    NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

    2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任


    腰椎すべり症

    腰椎すべり症

    腰椎すべり症とは背骨が前方や後方にずれてしまう疾患です。腰痛・足の神経障害の他に間欠性跛行(かんけつせいはこう)の症状を引き起こします。