牽引療法で椎間板ヘルニアは治せる? 序論

目次

はじめに

牽引療法は理学療法の1つとしてよく腰痛治療に使われています。特に椎間板ヘルニアの場合、腰を牽引したら圧迫された神経への圧迫が取れるだけではなく、椎間板ヘルニア自体が回復出来るという説もあります。今回は、牽引療法で椎間板ヘルニアを治すこと可能なのか?という疑問について論文を元に解明したいと思います。


結論

牽引療法は椎間板ヘルニアを完治できる治療法として認められていません。牽引療法は腰痛に効く科学的エビデンスが少ない為、2019年に改訂された「腰痛診療ガイドライン」の「腰痛の治療として物理・装具療法は有用か」に記載のある各治療法の推奨度合いについて、牽引療法は行うことを弱く推奨する(意訳:効果があるかどうかはまだわからないけれど、それを承知した上で行ってください)とされています。


腰椎牽引療法

腰椎牽引療法とは

腰椎牽引療法は、腰の牽引と休止を繰り返すことにより、腰の筋肉や筋膜由来による痛みや神経圧迫によって起こる痛み、痺れを緩和する治療法です。その歴史は非常に古く、古代ギリシャの医師で医学の父で「医学の父」と称されるヒポクラテスが治療に用いたと記録があります。そんな遥か昔から存在する腰椎牽引ではありますが、現代の臨床試験の報告については、長期的に有効、短期的に有効など様々な議論が有ります。

腰椎牽引療法に関する議論

2022年に発行されたComputational and Mathematical Methods in Medicine誌に記載された様々な臨床試験の結果を統計解析によると、限られた腰椎牽引の短期的な有効性が確認されました。機械的牽引は腰椎椎間板ヘルニア患者の腰痛を緩和し、ODI(機能障害)を低下させ、症状を改善させることができる、というものです。この分析では、腰椎牽引は大きく分けて2つの効果があることがわかりました。まず、牽引によって椎体が分離されることで椎間板の圧力が減少するということ。もうひとつは、脊椎靭帯の役割を強化し、椎間板を助けるということです。また、腰椎牽引が椎間板の大きさを変化させると考えられていることも指摘されています。しかしながら、そのような結論を支持する証拠も長期的な効果の理論的根拠も提案されていません。

一方でいくつかの臨床試験はその有効性に疑問が呈され、イギリスのNICEやベルギーのKCE、デンマーク保健局にアメリカ医師会が発行したガイドラインにおいて、腰痛治療における療法として牽引を推奨していないのが現状です。


まとめ

機械的牽引は、腰椎椎間板ヘルニア患者の腰痛や下肢痛を効果的に軽減し、ODI(機能障害)を短期的に改善することができる理学療法の1つです。しかし、椎間板ヘルニアを完治させることはできません。腰椎牽引は、他の従来の理学療法と組み合わせて、根本的な椎間板治療の前後に行うことで治療効果を高めることが出来るのではないか考えます。


腰痛リハビリセンター

当クリニックに併設している腰痛リハビリセンターでは、フランスのサティスフォーム社製の機械的牽引装置を患者様の腰の状態によってリハビリプログラムの1つとして取り入れております。ご興味・ご関心があられましたら一度お問い合わせください。

腰痛リハビリセンター
受付時間 9:00~17:00
定休日 水曜日・日曜日・祝日
電話番号 06-6370-0510

牽引療法で椎間板ヘルニアは治せる? 結論

参考文献参照元

①Clinical Efficacy of Mechanical Traction as Physical Therapy for Lumbar Disc Herniation: A Meta-Analysis - 2022 - Wenxian Wang, Feibing Long, Xinshun Wu, Shanhuan Li, Ji Lin - Computational and Mathematical Methods in Medicine (Volume 2022, Article ID 5670303)
②Lumbar traction: a review of the literature - 1994 - G L Pellecchia - Journal of Orthopedic&Sports (Volume 20, Issue 5, P 262-7)
③Mechanical Traction for Lumbar Radicular Pain: Supine or Prone? A Randomized Controlled Trial - 2018- Meral Bilgilisoy Filiz, Zeynep Kiliç, Alper Uçkun, Tuncay Çakir, Şebnem Koldaş Doğan, Naciye Füsun Toraman - American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation (Volume 97, Issue 6, P 433-439)
④The effect of mechanical traction on low back pain in patients with herniated intervertebral disks: a systemic review and meta-analysis - 2020 - Yu-Hsuan Cheng, Chih-Yang Hsu, Yen-Nung Lin - Clinical Rehabilitation (Volume 34, Issue 1, P 13-22)
⑤Effect of continuous lumbar traction on the size of herniated disc material in lumbar disc herniation - 2006 - Bulent Ozturk, Osman Hakan Gunduz, Kursat Ozoran, Sevinc Bostanoglu - Rheumatology International (Volume 26, Issue 7, P 622-6)
⑥Lumbar extension traction alleviates symptoms and facilitates healing of disc herniation/sequestration in 6-weeks, following failed treatment from three previous chiropractors: a CBP® case report with an 8 year follow-up - 2017 - Paul A Oakley, Deed E Harrison - The Journal of Physical Therapy Science (Volume 29, Issue 11, P 2051-2057)

参考文献のリンク

Clinical Efficacy of Mechanical Traction as Physical Therapy for Lumbar Disc Herniation: A Meta-Analysis
Lumbar traction: a review of the literature
Mechanical Traction for Lumbar Radicular Pain: Supine or Prone? A Randomized Controlled Trial
The effect of mechanical traction on low back pain in patients with herniated intervertebral disks: a systemic review and meta-analysis
Effect of continuous lumbar traction on the size of herniated disc material in lumbar disc herniation
Lumbar extension traction alleviates symptoms and facilitates healing of disc herniation/sequestration in 6-weeks, following failed treatment from three previous chiropractors: a CBP® case report with an 8 year follow-up

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任