概略
鍼灸治療は慢性腰痛に対して安全で効果的な治療法です。ただし、すべての腰痛に効果的ではないという点に注意が必要です。例えば、椎間板損傷による線維輪の漏れによって発生した腰痛の場合は、改善される可能性は低いので再生治療や減圧手術で対応することになります。
目次
はじめに
「鍼灸院に通い出してから調子がよくありません。腰痛も治ってないし、脚にも痛みや痺れを感じ始めています」と50代の腰痛患者様が来院されました。MRIで検査したところ、結果はL4/5の椎間板変性とL5/Sの脱出型椎間板ヘルニアでした。こちらの患者様の症状に対して鍼灸は効果が無かったようですが、果たして鍼灸は腰痛に有効ではないと結論づけられるのでしょうか?
今回は鍼灸と腰痛に関してお話ししたいと思います。
結論
鍼灸は、理学療法以外の保存療法として腰痛に治療効果があると世界的に認められています。
鍼灸について
鍼灸は国家資格である「はり師」「きゅう師」が施術する治療です。様々な疾患や症状に適した経穴(ツボ)に専用の鍼を刺したり、お灸で熱したりして、身体に刺激を加えることで神経系の一部も刺激し、血行を促進させて筋肉や神経症状を緩和させることが出来ると考えられます。
鍼灸が腰痛に与える影響
神経系を刺激
鍼治療で刺激された場所は、脊髄、筋肉、脳から自然に痛みを緩和する化学物質を放出する可能性があります。
体内で生成されるオピオイドのような化学物質の放出
上記理論と同様に、鍼治療は痛みを和らげる化学物質を放出する可能性があります。これらは体内で自然発生し、オピオイド鎮痛剤と同様の特性を持っています。
※オピオイド…麻薬性鎮痛薬。代表的な医薬品としてモルヒネが挙げられます。
神経伝達物質の放出
神経系を刺激することで、様々な神経の末端部分のオン/オフを調節する神経伝達物質を放出して、痛みを遮断する効果が有ります。
体内の電気信号の誘発
この電気信号は、エンドルフィンの放出を含む、身体が痛みを処理するスピードを高めることができます。
※エンドルフィン…体内で分泌される神経伝達物質。モルヒネと同様の作用があります。
鍼灸が腰痛に有効である裏付け
鍼治療の仕組みは完全に解明されていませんが、腰痛に対対する鍼治療の試験では副作用のリスクがほとんどなく、素晴らしい結果が示されています。
JAMA Internal Medicine(2012年)
慢性疼痛を抱える約2万人に対して、本物の鍼治療、偽の治療、全く治療を受けなかった3つのグループに分けて症状の改善を比較しました。結果は、実際の鍼治療を受けた人は慢性的な痛みの50%が改善されたことが分かりました。
The Clinical Journal of Pain(2013年)
既に発表されている11本の論文をランダム化比較試験したところ、鍼治療はほとんどの痛み止めよりも副作用が少なく、優れている可能性があることがわかりました。
まとめ
鍼治療は、痛みをコントロールするための理学療法ですが、万能ではないので効かない場合もあります。例えば、椎間板の損傷による線維輪の漏れによって発生した腰痛の場合、鍼治療で改善される可能性は低いので、再生治療あるいは減圧手術で対応することになります。腰痛が2週間以上続き、慢性化して日常生活に支障をきたしている場合は、医師の診察を受けてみましょう。
参考文献参照元
①Acupuncture for chronic pain: individual patient data meta-analysis - 2012 - Andrew J Vickers, Angel M Cronin, Alexandra C Maschino, George Lewith, Hugh MacPherson, Nadine E Foster, Karen J Sherman, Claudia M Witt, Klaus Linde; Acupuncture Trialists' Collaboration - Arch Intern Med (Volume 172, Issue 19, P 1444-53)
②Acupuncture for acute low back pain: a systematic review - 2013 - Jun-Hwan Lee, Tae-Young Choi, Myeong Soo Lee, Hyejung Lee, Byung-Cheul Shin, Hyangsook Lee - The Clinical Journal of Pain (Volume 29, Issue 2, P 172-85)
③Effectiveness of acupuncture for nonspecific chronic low back pain: a systematic review and meta-analysis - 2013 - Megan Lam, Rose Galvin, Philip Curry - Spine (Volume 38, Issue 24, P 2124-38)
④The effectiveness and safety of acupuncture in the treatment of lumbar disc herniation: Protocol for a systematic review and meta-analysis - 2020 - Rong Deng, ZiLing Huang, Xun Li, XingHong Pei, ChengXi Li, JianXin Zhao - Medicine (Volume 99, Issue 12)
参考文献のリンク
①Acupuncture for chronic pain: individual patient data meta-analysis
②Acupuncture for acute low back pain: a systematic review
③Effectiveness of acupuncture for nonspecific chronic low back pain: a systematic review and meta-analysis
④The effectiveness and safety of acupuncture in the treatment of lumbar disc herniation: Protocol for a systematic review and meta-analysis
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任