概略
慢性的な腰痛はうつ病に繋がり、その逆もまた然りということが多くの研究で示されています。慢性的な痛みを持つ人はうつ病を発症する可能性が健康な人より3倍高く、うつ病の人が慢性的な痛みを発症する可能性も3倍高くなると考えられています。幸いなことに、腰痛もうつ病も治療可能ですので、最良の結果を得るためにも両方の状態に対処することが重要です。
はじめに
昨年からひどい腰痛に悩まれておられる60代の女性患者様が来院された際、「この半年の間に腰痛のことで頭がおかしくなってきたような気がします。もしかしたら、うつ病になっているのかもしれません」と訴えられました。腰痛が長期化することで精神的な負担は増えますが、鬱病になる恐れがあるのでしょうか?
今回は腰痛とうつ病の関係についてお話したいと思います。
結論
うつ病と腰痛は、密接な関係があることが多くの研究によって明らかにされています。
腰痛とうつ病の研究報告
科学雑誌Pain(1991年)
退役軍人の慢性疼痛患者の男性を対象とした研究で、患者の42%が疼痛発症前にうつ病の発症を経験し、一方58%は疼痛が始まった後にうつ病を経験することを明らかにしました。
科学雑誌Spine(1993年)
慢性腰痛患者の39%がうつ病の症状を示していたことが報告されました。
科学雑誌Spine(2000年)
腰痛とうつ病の調査研究結果において、16件の研究の内14件の研究がうつ病により腰痛発症のリスクが高まっていることが分かりました。
慢性疼痛によるうつ病の症状
慢性的な痛みは身体だけではなく、思考や感情に多大な影響を与えます。慢性的腰痛を抱えている人は、かつてのように動けなくなったり、孤立したりすることがあります。以下のような症状がある場合、慢性疼痛に加えて、うつ病を患っている可能性があります。
- 集中するのが難しい
- 絶望感
- 短気
- 食欲減少または過食
- 圧倒的疲労
- 睡眠の問題
- 悲しみ
- 死と自殺への思い
慢性的な痛みがうつ病につながっているのか、それともその逆なのかを評価するのが難しい場合もあります。慢性的な痛みを持つ人は、うつ病を発症する可能性が健康な人より3倍高く、うつ病の人が慢性的な痛みを発症する可能性も3倍高くなると考えられています。幸いなことに、うつ病は治療可能であり、うつ病と腰痛を同時に治療すると気分が良くなる可能性が高いと考えられます。
まとめ
腰痛とうつ病に対して最善の治療を行うためには、痛みだけに注目するのではなく、それぞれの病状に対して最適なアプローチを行うことが重要です。腰痛患者様がうつ病を発生させないためにも、出来るだけ早い段階で症状緩和するための手段を講じることをお勧めします。
参考文献参照元
①The Link between Depression and Chronic Pain: Neural Mechanisms in the Brain - 2017 - Jiyao Sheng, Shui Liu, Yicun Wang, Ranji Cui, Xuewen Zhang - Neural Plasticity (Volume 2017)
②Prevalence, onset, and risk of psychiatric disorders in men with chronic low back pain: a controlled study - 1991 - Hampton J Atkinson, Mark A Slater, Thomas L Patterson, Igor Grant, Steven R Garfin - PAIN (Volume 45, Issue 2, P 111-121)
③Psychiatric illness and chronic low-back pain. The mind and the spine--which goes first? - 1993 - P B Polatin, R K Kinney, R J Gatchel, E Lillo, T G Mayer - Spine (Volume 18, Issue 1, P 66-71)
④A review of psychological risk factors in back and neck pain - 2000 - S J Linton - Spine (Volume 25, Issue 9, P 1148-56)
⑤Association Between Depressive Symptoms or Depression and Health Outcomes for Low Back Pain: a Systematic Review and Meta-analysis - 2022 - Jessica J Wong, Andrea C Tricco, Pierre Côté, Catherine Y Liang, Jeremy A Lewis, Zachary Bouck, Laura C Rosella - Journal of General Internal Medicine (Volume 37, Issue 5, P 1233-1246)
参考文献のリンク
①The Link between Depression and Chronic Pain: Neural Mechanisms in the Brain
②Prevalence, onset, and risk of psychiatric disorders in men with chronic low back pain: a controlled study
③Psychiatric illness and chronic low-back pain. The mind and the spine--which goes first?
④A review of psychological risk factors in back and neck pain
⑤Association Between Depressive Symptoms or Depression and Health Outcomes for Low Back Pain: a Systematic Review and Meta-analysis
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任