概略
座ることで椎間板に圧力がかかります。時間が経つにつれて、椎間板の外側の繊維が伸びたり切れたりしするリスクが高まり、併せて腰やお尻の筋肉が硬なったり弱くなったりします。結果として長時間の座り姿勢が腰痛の原因となります。デスクワークが多い現代において、腰痛を避けるためにも適度に立ち上がったり運動したりすることが推奨されます。
はじめに
デスクワークなど座り仕事が中心になった現代において、誰もが腰痛になる可能性があります。その環境が長時間に及ぶと、「何もしていないのに、なぜ腰が痛くなるのだろう?」と思われることでしょう。まさに腰痛は現代病と言ったところです。長く座り続けた時、腰に何が起こって症状が引き起こされているのでしょうか?
本日は、座位と腰痛の関係についてお話したいと思います。
結論
座位による腰痛は、最も一般的な症状の1つです。座ったままの姿勢を長く続くと、椎間板へ圧力がかかり、同時に腰の筋肉も硬くなります。そういった毎日の蓄積が、結果として腰痛を引き起こしやすい環境になっていると考えられます。
座位と腰痛のメカニズム
腰椎椎間板への圧力
姿勢にもよりますが、座った状態では腰椎椎間板に40%~90%以上の圧力がかかると言われています。椎間板は、腰痛の原因となる最も一般的な部位の1つであり、脊椎の間にあるゼリー状の構造物です。簡単に言えば、脊椎の緩衝材のような役割を担っています。座った時に、上半身の体重は背骨の後ろから椎間板のある前の方に移動します。普段は特に大きな問題ではないのですが、時間経過と供に椎間板の外側の繊維が伸びたり切れたりします。すると椎間板が外側に押し出され、神経に接触します。これが腰痛を引き起こすメカニズムです。
筋肉の硬化と衰弱
長時間座っていると、筋肉が硬なったり弱くなったりします。特に腰とお尻の筋肉(大腰筋や腸腰筋、大臀筋など)は負荷がかからない状態が長く続くと運動不足になり、腰椎を安定させる筋肉が弱くなります。すると椎間板への負担がさらに増して、破損する可能性が高くなります。
研究報告
2015年、PMCに掲載されたデータによると、休憩を取らずに長時間座っていると、椎間板L4/L5で最も大きく高さが変化し、他の椎間板は大きな変化は見られませんでした。また、15分おきに休憩や体位を変えた場合、椎間板L4/L5の高さの変化は少ないこともわかりました。椎間板の高さの変化が少なければ、腰痛になりにくい可能性があることが示唆された結果です。
まとめ
多くの仕事がデスクワークになり、長時間座る機会が多くなった現代社会において、腰痛のリスクをできるだけ避けるためには、時々立ち上がったり運動したりすることが大事です。すでに腰痛に悩まされている方は、専門家の医学的アドバイスを求めましょう。身体が発するSOSを聞き入れ、症状改善のために適度な運動を心がけることが、痛みのない未来への第一歩だと考えます。
参考文献参照元
①Lumbar Disc Changes Associated with Prolonged Sitting - 2014 - Gregory G. Billy, Susan K. Lemieux, Mosuk X. Chow - PM&R (Volume 6, Issue 9, P 790–795)
②Effects of prolonged sitting on the passive flexion stiffness of the in vivo lumbar spine - 2005 - Tyson A C Beach, Robert J Parkinson, J Peter Stothart, Jack P Callaghan - The Spine Journal (Volume 5, Issue 2, P 145-54)
③Lumbar spine movement patterns during prolonged sitting differentiate low back pain developers from matched asymptomatic controls - 2010 - Nadine M Dunk, Jack P Callaghan - WORK (Volume 35, Issue 1, P 3-14)
④Prolonged sitting at work is associated with a favorable time course of low-back pain among blue-collar workers - 2018 - Mette Korshøj, Marie Birk Jørgensen, David M Hallman, Julie Lagersted-Olsen, Andreas Holtermann, Nidhi Gupta - Scandinavian Journal of Work, Environment & Health (Volume 44, Issue 5, P 530-538)
⑤Effect of lumbar muscle atrophy on the mechanical loading change on lumbar intervertebral discs - 2022 - Bing Qin, Michele Baldoni, Biao Wu, Lu Zhou, Zhiyu Qian, Qiaoqiao Zhu - Journal of Biomechanics (Volume 139, Issue 1, P 111120)
参考文献のリンク
①Lumbar Disc Changes Associated with Prolonged Sitting
②Effects of prolonged sitting on the passive flexion stiffness of the in vivo lumbar spine
③Lumbar spine movement patterns during prolonged sitting differentiate low back pain developers from matched asymptomatic controls
④Prolonged sitting at work is associated with a favorable time course of low-back pain among blue-collar workers
⑤Effect of lumbar muscle atrophy on the mechanical loading change on lumbar intervertebral discs
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。