概略
馬尾神経は脊髄の末端にあり、脚や骨盤、膀胱、その他の器官を機能させる神経の集まりです。馬尾症候群は腰の神経が強く圧迫される極めて重篤な神経疾患です。発見や治療が遅れると回復不能になることもあり得ますが、早期手術で回復の可能性があります。
はじめに
先日、インドネシア人患者様から予約のキャンセル連絡が入りました。当院でディスクシール治療(Discseel® Procedure)を受ける予定だったのですが、理由を伺うと、馬尾症候群が発覚した為に緊急手術が必要になったとのことです。その後、手術は成功されましたが、本当に回復できるかどうか心配でたまらないといったご様子でした。
今回は、馬尾症候群から回復できるのか?についてお話したいと思います。
結論
馬尾症候群から回復することは可能です。
馬尾症候群
馬尾神経(ばびしんけい)
馬尾神経は脊髄の末端にあり、脚や骨盤、膀胱、その他の器官を機能させる神経の集まりです。その形状が馬の尾に似ていることから馬尾神経と呼ばれています。
馬尾症候群(ばびしょうこうぐん)
馬尾神経が急激に圧迫されることによって発生します。原因は腰椎椎間板ヘルニア、腫瘍、外傷など多岐にわたり、急激な進行が特徴です。症状としては、強い腰痛や下肢痛、下肢の感覚異常、膀胱や直腸の機能障害(尿失禁や便秘)などがあります。緊急手術が必要となることが多く、早期の治療が重要です。
馬尾症候群の主な警告サインは次のような症状があります。
- 腰痛や坐骨神経痛
- 下肢の脱力感やしびれなどの感覚の変化
- 臀部の感覚の喪失または低下
- 尿閉や失禁などの排尿、膀胱、腸の障害
- 性機能障害
- 腱反射の低下
脊柱管狭窄症馬尾型
馬尾症候群と似た疾患に脊柱管狭窄症馬尾型があります。脊柱管狭窄症馬尾型は、脊柱管と呼ばれる神経の通り道が、主に加齢に伴い変形や肥厚した黄色靭帯によって脊柱管内が狭くなり、馬尾神経が慢性的に圧迫されることで発生します。症状は徐々に進行し、歩行時に下肢の痛みやしびれ、間欠性跛行(短時間歩くと痛みが生じ、休むと改善する)により日常生活に支障をきたすのが特徴です。保存療法(薬物療法やリハビリ)や手術療法が行われますが、急を要するケースは少ないです。
馬尾症候群の治療方法
馬尾症候群を回復させるには、緊急減圧手術を受けるしかありません。発見や治療が遅れますと、回復不能になることも危惧されますので、可及的速やかに手術を行う必要があります。
馬尾症候群の後遺症
「腰椎椎間板ヘルニア 診療ガイドライン 改訂第2版」によりますと、馬尾症候群発症から48時間以後の手術では、それ以前の手術例に比べ感覚・運動障害や排尿障害はより多い頻度で残存し、48時間以内と以後では膀胱直腸障害、下肢感覚障害、運動障害の回復に有意差がみられたとの報告があります。
まとめ
腰椎椎間板ヘルニア 診療ガイドラインに「腰椎椎間板ヘルニアに伴う重症の馬尾症候群は、早期に手術を行うことが望ましい」と書いてあります。腰痛に悩お悩みの方は、一度専門医に相談して、早い段階で椎間板ヘルニアの治療をすることをお勧めします。重篤な馬尾症候群が発生する前に……。
参考文献参照元
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④Lumbar decompression surgery for cauda equina syndrome — comparison of complication rates between daytime and overnight operating - 2022 - Jibin J Francis, Edward Goacher, Joshua Fuge, John G Hanrahan, James Zhang, Benjamin Davies, Rikin Trivedi, Rodney Laing, Richard Mannion - Acta Neurochirurgica (Volume 164, Issue 5, P 1203-1208)
⑤Factors affecting urinary outcome after delayed decompression in complete cauda equina syndrome: “A regression model study” - 2022 - Vivek Jha, Gagan Deep, Naveen Pandita, Kaustubh Ahuja, Syed Ifthekar, Pankaj Kandwal - European Journal of Trauma and Emergency Surgery (Volume 48, Issue 2, P 1009-1016)
参考文献のリンク
①Cauda equina syndrome treated by surgical decompression: the influence of timing on surgical outcome
②Standards of care in cauda equina syndrome
③Outcome of spinal decompression in cauda equina syndrome presenting late in developing countries: case series of 50 cases
④Lumbar decompression surgery for cauda equina syndrome — comparison of complication rates between daytime and overnight operating
⑤Factors affecting urinary outcome after delayed decompression in complete cauda equina syndrome: “A regression model study”
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。