概略
椎間板は、その弾力性とクッション性を保つために多くの水分を必要とします。しかし、水分不足が続くと椎間板の機能が低下し、腰にかかる負担が増加します。これにより腰痛が悪化することが考えられます。椎間板の健康を維持するためには、日常的に水分補給を増やし、適切な運動を心がけることが重要です。これにより、椎間板の水分を保ち、腰痛の予防に役立てることができます。
はじめに
60代前半の腰痛患者様を診察した際、変性した椎間板が脱水状態でした。水分補給しない状態が続くと、めまいや頭痛、失神などの脱水症状が現れることはご存知かと思います。この一見、水分不足と腰痛に関係性はなさそうですが、本当にそうでしょうか?
本日はこの疑問についてお話します。
結論
水分不足は腰痛を引き起こす原因になることが報告されている。
脱水症状になると、骨と骨の間にあるクッションの役割をしている椎間板から水分が奪われ、腰痛が引き起こされます。なぜなら、脱水によりクッション機能が低下することで、骨に衝撃がダイレクトに伝わってしまうからです。
脱水症状と腰痛の関係
背骨と背骨の間にある小さなゼリー状の椎間板は約75%が水分です。さらに、線維輪という椎間板組織に囲まれた髄核と呼ばれる椎間板の中心は、ほとんどが水分でできています。水分量は加齢とともに減少し、背骨の椎間板が適切に水分補給されていないと、身体を支えたり姿勢を保つことができません。人間が活動すると、自重による圧力で椎間板から少しずつ水分が押し出されています。1日の終わりには、朝起きた時よりも最大で1.5cmほど背が低くなっていることもあります。
椎間板はそのクッション性により背骨を磨耗から守り、日常生活において常に衝撃を吸収しています。椎間板が適切に機能できない場合、背骨にさらなるストレスがかかり、腫れや痛みを引き起こし、椎間板変性や椎間板ヘルニアといった腰の病気に繋がることさえあります。
研究
2019年パキスタンで行われた研究によると、腰痛患者426人の内61.5%が日常生活において、水分補給が不足していると腰痛を感じやすいという報告がありました。この結果から腰痛と脱水との関連性を感じていたことが分かりました。
脱水症状の見分け方
水分補給が大切なのはご存知の通りですが、ついつい忘れがちです。脱水症状を示す身体のサインを見逃さないようにしましょう。
脱水症状を示す10のサイン
- 口臭
- 乾燥肌
- 尿の色が濃い
- 疲労感
- 筋肉のけいれん
- かすみ目/ドライアイ
- 怒り
- 頭痛
- 発熱
- めまい
まとめ
水分は人体の50%以上を占めており、生命活動を可能にする最も大事な要素の1つです。人間が活動する日中の椎間板は、自身の水分量を維持するために懸命に働きますが、そうであっても水分量は減っていきます。そして椎間板は寝ているときにしか水分を増やすことができません。大人の身体に必要な水分量は平均で1日2.5リットルと言われていますので、椎間板を助けるためにも、水分の摂取量を増やし、こまめな水分補給と適度な運動を心がけましょう。あなたの椎間板の健康は、水分補給にかかっていることを心に留めておいてください。
参考文献参照元
①Characteristics of back pain in young adults and their relationship with dehydration: a cross sectional study [version 2; peer review: 1 approved, 1 not approved] - 2022 - Faizan- ul-Haq, Uzair Yaqoob, Muniba Mehmood, Adeel Ahmed Siddiqui, Syed Muhammad Usama, Syed Zohaib Maroof Hussain, Muhammad Mannan Ali Khan - F1000Research
②Towards a better understanding of low-back pain: a review of the mechanics of the lumbar disc - 1975 - ALF NACHEMSON - Rheumatology (Volume 14, Issue 3, P 129-43)
③Dehydration Enhances Pain-Evoked Activation in the Human Brain Compared with Rehydration - 2014 - Yuichi Ogino, Takahiro Kakeda, Koji Nakamura, Shigeru Saito - Anesthesia & Analgesia (Volume 118, Issue 6, P 1317-1325)
④SPINAL “INSTABILITY” FOLLOWING DISC DEHYDRATION AND INJURY - 2018 - F.D Zhao, P. Pollintine, A.S. Przybyla, P. Dolan, M.A. Adams - Orthopaedic Proceedings (Volume 88)
⑤運動器の疼痛と脱水の関係-頚部・背部・腰部痛患者と生活習慣病の脱水の頻度 - 202020 - 竹川 克一 - 日本整形外科超音波学会会誌 (Volume 31, Issue 1, P 82-87)
参考文献のリンク
①Characteristics of back pain in young adults and their relationship with dehydration: a cross sectional study [version 2; peer review: 1 approved, 1 not approved]
②Towards a better understanding of low-back pain: a review of the mechanics of the lumbar disc
③Dehydration Enhances Pain-Evoked Activation in the Human Brain Compared with Rehydration
④SPINAL “INSTABILITY” FOLLOWING DISC DEHYDRATION AND INJURY
⑤運動器の疼痛と脱水の関係-頚部・背部・腰部痛患者と生活習慣病の脱水の頻度
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任