概略
黄色靭帯肥厚は、脊柱管狭窄症の主要な原因の一つです。加齢により椎間板の水分が減少し、黄色靭帯が硬くなり肥厚することで、脊柱管が狭くなり神経が圧迫されます。これにより、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じます。治療には、保存的治療(薬物療法やリハビリ)と外科的治療(手術)があります。適切な治療法を選ぶためには、専門医の診断と相談が不可欠です。
目次
黄色靭帯肥厚が原因の脊柱管狭窄症は対応できない?
新型コロナウイルスの水際対策の緩和が発表されて以降、海外患者様から当クリニックへのお問い合わせやご予約が増えてきました。そんな折、黄色靭帯の肥厚(ひこう)による腰部脊柱管狭窄症と診断された60代の中国人患者様から遠隔画像診断の依頼がありました。しかし、残念ながら椎間板の再生治療は適応になりませんでした。当院の治療は黄色靭帯の肥厚が原因の脊柱管狭窄症には対応できません。患者様にはその旨を説明し、友人の整形外科医をご紹介させていただきました。
今回は「黄色靭帯肥厚と脊柱管狭窄症の関係」についてお話ししたいと思います。
黄色靭帯が肥厚する原因について
黄色靭帯の肥厚とは、加齢により椎間板内部の水分が減少したことで背骨を支えることができず、黄色靭帯がそれを補うために硬く太くなる肥厚が生じると考えられています。結果として、年齢を重ねれば重ねるほど黄色靭帯の肥厚が進み、脊柱管が狭くなる脊柱管狭窄症を患いやすくなります。
腰痛の原因である腰部脊柱管狭窄症とは
腰痛の原因は様々ですが、人口のおよそ11%(その多くは50歳以上)の方々が脊柱管狭窄症に苦しんでおられます。脊柱管狭窄症は、脊柱管という骨のトンネルが狭くなる病気です。脊柱管が狭くなると、トンネル内の神経が圧迫され、痛みやしびれといった症状が出てきます。黄色靭帯の肥厚による腰部脊柱管狭窄症と診断されたら、脊柱管内部の肥厚した黄色靭帯により神経が圧迫されていることを意味します。
脊柱管を維持する黄色靭帯について
黄色靭帯は、背骨と背骨を繋ぐことで筋肉としても機能する非常に弾力性のある靭帯です。黄色靭帯の筋肉機能は、背骨の前屈運動を支えている重要な役割を果たしています。健康な靭帯は神経を保護し、健康な脊柱管を維持します。
背骨の靭帯が厚くなる原因は「コラーゲン」
黄色靭帯は、約80%の弾性繊維と20%のコラーゲン繊維で構成されています。しかし、加齢に伴い弾性繊維は徐々にコラーゲンに置き換わっていきます。このコラーゲン繊維は、柔軟性に欠けるという欠点を持ちます。そして時間経過により肥厚が進み、最大で10倍もの厚さになることもあります。また、関節炎や脊椎やその周辺の炎症の結果として肥厚することもあります。
脊柱管狭窄症の症状
脊柱管狭窄症により狭くなった脊柱管の中で神経の圧迫や炎症が生じ、下肢に様々な神経症状が出現します。多くの場合、次のようなものがあります。
- 臀部や足の痛み
- しびれ
- 衰弱
- 痙攣(けいれん)
- 尿もれ
脊柱管狭窄症の治療
保存的治療
症状が軽い患者様は、保存的・非外科的アプローチにより、十分な痛みの緩和が得られる可能性があります。従来の保存的治療は以下の通りです。
- 非ステロイド性抗炎症薬
- 脊椎硬膜外注射
- 痛み止めの内服薬
- 短期間のステロイド内服
外科的治療
保存的治療で痛みの症状が改善されない場合や、神経損傷により腕や脚に力が入らない場合は手術が検討されることがあります。特に重大な損傷によって引き起こされる麻痺がある場合は、脊髄の損傷を防ぐために緊急手術が必要となります。外科的手術の選択肢は下記の通りです。
- 椎弓切除術または椎弓切除術
- 腰椎減圧椎弓切除術
- 固定術
NLC野中腰痛クリニックによる腰部脊柱管狭窄症の治療実績
腰部脊柱管狭窄症の治療実績をご紹介します。中高年以上の患者さまが多く、治療中のご様子までご覧いただけます。当院の腰部脊柱管狭窄症の治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、6,358件(集計期間:2018年6月~2024年10月)
ぎっくり腰を発症されて以後、腰痛発作を繰り返されている患者さまです。損傷した椎間板をディスクシール治療(Discseel® Procedure)で修復することで、腰椎の負荷軽減と坐骨神経症状の改善を図りました。
両足の痙攣(こむら返り)が出現するようになって歩けない状態の患者さまです。変形し潰れた椎間板を検査し、ディスクシール治療(Discseel® Procedure)で修復することで足の神経症状の改善を図ることと致しました。治療時間は20分程度ですが、問題なく治療は終了しております。
まとめ
本や研究では、加齢に伴う黄色靭帯の肥厚が脊柱管を狭窄させ、神経の圧迫によって腰痛や下肢のしびれを引き起こすことが示されています。治療は症状の程度により異なり、軽度の場合は薬物療法、理学療法、運動療法などの保存療法が用いられます。これらは痛みの軽減や筋力強化、柔軟性の向上を目的としています。重度の場合や保存療法が効果を示さない場合は、手術療法が検討されます。手術には脊柱管を広げる除圧術や脊椎を固定する固定術があります。予防には適度な運動や体重管理、姿勢の改善が重要です。早期に症状が現れた場合は、速やかに医師の診断を受けることが大切です。適切な予防策と早期治療で、生活の質を向上させることが可能です。
参考文献参照元
①Ligamentum flavum thickening at lumbar spine is associated with facet joint degeneration: An MRI study - 2016 - Ergun Karavelioglu, Emre Kacar, Yucel Gonul, Mehmet Eroglu, Mehmet Gazi Boyaci, Selma Eroglu, Ebru Unlu, Alper Murat Ulasli - Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation (Volume 29, Issue 4, P 771-777)
②The paradoxical relationship between ligamentum flavum hypertrophy and developmental lumbar spinal stenosis - 2016 - Prudence Wing Hang Cheung, Vivian Tam, Victor Yu Leong Leung, Dino Samartzis, Kenneth Man-Chee Cheung, Keith Dip-Kei Luk, Jason Pui Yin Cheung - Scoliosis and Spinal Disorders (Volume 11, Issue 1, P 26)
③Measurements of ligamentum flavum thickening at lumbar spine using MRI - 2009 - Tadanori Sakamaki, Koichi Sairyo, Toshinori Sakai, Tatsuya Tamura, Yuji Okada, Hiroshi Mikami - Archives of Orthopaedic and Trauma Surgery (Volume 129, Issue 10, P 1415-9)
④Analysis of factors influencing ligamentum flavum thickness in lumbar spine - A radiological study of 1070 disc levels in 214 patients - 2019 - G Sudhir, S Vignesh Jayabalan, Saikrishna Gadde, G Venkatesh Kumar, K Karthik Kailash - Clinical Neurology and Neurosurgery (Volume 182, P 19-24)
⑤Symptomatic Lumbar Hypertrophy of Flavum Ligament Associated with Neurogenic Claudication - 2021 - Mahadewa Tjokorda G. B. - Biomedical and Pharmacology Journal (Volume 12, Issue 1)
⑥黄色靭帯における変性の画像病態とacidic Fibroblast growth factor (FGF-1) の発現変化 - 2005 - 市川 二郎, 平泉 裕, 宮岡 英世, 立川 哲彦 - 昭和医学会雑誌 (65 巻 2 号 p. 151-159)
参考文献のリンク
①Ligamentum flavum thickening at lumbar spine is associated with facet joint degeneration: An MRI study
②The paradoxical relationship between ligamentum flavum hypertrophy and developmental lumbar spinal stenosis
③Measurements of ligamentum flavum thickening at lumbar spine using MRI
④Analysis of factors influencing ligamentum flavum thickness in lumbar spine - A radiological study of 1070 disc levels in 214 patients
⑤Symptomatic Lumbar Hypertrophy of Flavum Ligament Associated with Neurogenic Claudication
⑥黄色靭帯における変性の画像病態とacidic Fibroblast growth factor (FGF-1) の発現変化
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは背骨にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなる疾患です。腰痛、足の神経障害や歩行困難などの症状を引き起こします。