概略
仙腸関節障害の症状は、腰椎椎間板ヘルニアとしばしば間違われることがあります。主な症状として、腰痛や臀部痛等の下肢の痛みが挙げられます。ぎっくり腰のように急激に痛みが出ることもあれば、長期間慢性的に痛みが続くこともあります。また、腰痛患者様が仙腸関節障害である確率はおよそ15%~30%と推定されており、年間の腰痛患者数を考えると大変多いことがわかります。
はじめに
先日、40代後半の腰痛患者様を診察した際、「父親が椎間板ヘルニアの手術を受けたことがあるので私も同じことになると思って不安でした。仙腸関節炎でよかった……」と安堵されていました。なぜこの患者様は2つの疾患を間違えてしまったのでしょうか?
本日は「仙腸関節障害と椎間板ヘルニアの症状が大変よく似ている件」についてお話します。
結論
仙腸関節障害の症状は、腰痛や臀部痛等の下肢の痛みが主な症状です。ぎっくり腰のように急激に痛みが出ることもあれば、長期間慢性的に痛みが続くこともあり、椎間板ヘルニアの症状と酷似しています。患者様が異なる2つの疾患について不安になるのも致し方ありません。
仙腸関節障害について
仙腸関節とは
仙腸関節は、背骨と骨盤をつないでいる関節部分を言います。背骨の付け根にある仙骨と呼ばれる三角形の骨があり、その両側の関節のおかげで上半身を自由に動かしながら、下半身を固定し安定させることができます。また、仙腸関節は、上半身の重量や衝撃を吸収・分散し、背骨や他の骨を損傷から守っています。しかし、仙腸関節は上半身の体重を支え続けているため骨が摩耗し、仙腸関節障害などの症状を引き起こす可能性があります。
仙腸関節障害とは
仙腸関節障害は、腰痛や下肢痛の原因として頻繁に発生しています。通常、仙腸関節はほとんど動きませんが、仙腸関節機能障害により、片方または両方の関節が動き過ぎたり、十分に動かなかったりすることがあります。これにより、影響を受けた仙腸関節に炎症や痛み、強張りが生じることがあります。既存の研究によると、女性の方が男性より仙腸関節障害なる可能性が高いことが確認されています(患者の63.2%が女性)。
仙腸関節障害の症状
仙腸関節障害の症状は、「椎間板ヘルニア」「坐骨神経痛」「脊柱管狭窄症」等の症状によく似ているため、正確な診断が難しい場面もあります。
仙腸関節障害の主な症状は下記の通りです。
- 腰の片側の鈍痛
- 脚の痛み、灼熱感、うずき、しびれ
- 臀部または太ももの筋肉痛、筋肉の強張り
- 長時間座っていられない
- 脚の不安定さ
仙腸関節痛は片方の関節だけに起こることが多いのですが、両方の関節に痛みが出ることもあります。また、仙腸関節の痛みは朝方に最もひどく、日中に改善されます。
仙腸関節障害の原因
靭帯が緩んだり張り過ぎたりすると仙腸関節に痛みが生じます。これは、転倒や労働災害、自動車事故、妊娠と出産、そして外科的手術 (椎弓切除術・腰椎固定術) の結果として生じる可能性があります。仙腸関節の痛みは、骨盤の動きが左右で異なる場合に起きやすく、両足の力関係や長さがアンバランスだったり、股関節の関節炎等による不安定な動作が原因だと思われます。
まとめ
腰痛患者様が仙腸関節障害である確率はおよそ15%~30%と推定されており、年間の腰痛患者数を考えると大変多いことがわかります。仙腸関節障害と椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症等の治療法は異なりますので、まずは痛みの原因が仙腸関節障害であるかを正確に判断し、最適な治療法を提案できる専門医と相談するようにお勧めします。
参考文献参照元
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⑥Sacroiliac joint dysfunction: pathophysiology, diagnosis, and treatment - 2021 - Ariella Gartenberg, Adam Nessim, Woojin Cho - European Spine Journal (Volume 30, Issue 10, P 2936-2943)
⑦Accuracy of the Diagnostic Tests of Sacroiliac Joint Dysfunction - 2020 - Parisa Nejati, Elham Sartaj, Farnad Imani, Reza Moeineddin, Lida Nejati, Marta Safavi - Journal of Chiropractic Medicine (Volume 19, Issue 1, P 28-37)
参考文献のリンク
①Determination of the Prevalence From Clinical Diagnosis of Sacroiliac Joint Dysfunction in Patients With Lumbar Disc Hernia and an Evaluation of the Effect of This Combination on Pain and Quality of Life
②Morphological characteristics of sacroiliac joint MRI lesions in axial spondyloarthritis and control subjects
③Significance of structural changes in the sacroiliac joints of patients with axial spondyloarthritis detected by MRI related to patients symptoms and functioning
④Sacroiliac joint dysfunction: evaluation and management
⑤The role of sacroiliac joint dysfunction in the genesis of low back pain: the obvious is not always right
⑥Sacroiliac joint dysfunction: pathophysiology, diagnosis, and treatment
⑦Accuracy of the Diagnostic Tests of Sacroiliac Joint Dysfunction
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。