概略
ビタミンD欠乏症は日本で一般的であり、人口の約80%に影響を与えています。さらにビタミンD欠乏症は、年齢性別問わず筋肉痛や筋力低下、骨の痛みなどを引き起こすことがあり、結果として腰痛に繋がる可能性があります。ビタミン不足を改善するためにも、サプリメントの摂取が推奨されています。
目次
はじめに ビタミンDと腰痛の関係について
先日、60代女性の腰痛患者様からセカンドオピニオンを求められました。別の病院で軽い腰椎椎間板変性と診断されましたが、MRIによる画像診断を行ったところ、特に異常が確認されませんでした。そのため、腰痛の原因は不明のままでしたが、患者様が腰痛以外には関節痛や筋肉痛も訴えておられたため血液検査によるビタミンDのチェックをお勧めました。それを聞いて患者様は「先生、ビタミンDは骨を丈夫にするとは聞いたことがありますけど、腰痛と関係あるんですか!?」と驚かれました。
今回はビタミンDと腰痛の関係についてお話ししたと思います。
結論 ビタミンDは筋肉痛や筋力低下を引き起こす
ビタミンD欠乏症は、年齢性別問わず、筋肉痛や筋力低下、骨の痛み等を起こすことがあります。
ビタミンD不足が腰に与える影響は大きい
ビタミンDが痛みのレベルにどのように影響するかの正確なメカニズムは未だ不明です。しかし、ビタミンDの欠乏は、くる病(骨軟化症)や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の発症と関係があると考えられています。ビタミンDは、カルシウムと並んで健康な骨構造を維持するのに非常に重要な栄養素の1つです。また、現在の科学的研究では、多発性硬化症や喘息、前立腺がんや免疫機能、その他疾患がビタミンDの欠乏に関連していると言われています。つまり腰痛と栄養素となるビタミンD不足には密接な関わりがあるということです。
さらに、近年の研究により痛みの状態は、血中のビタミンD濃度の低さと関連していることが示されました。研究報告によると、ビタミンDは炎症の増加、痛みをコントロールする神経経路の変化等、人が痛みを感じる能力に影響を及ぼしている可能性があるとのことです。
腰痛患者のビタミンD不足を指摘する研究結果
2003年 Spine誌
サウジアラビアで原因不明の慢性腰痛を持つ患者360人を評価した研究が発表されました。その結果は、83%の腰痛患者にビタミンDが不足していることが判明しました。ビタミンD欠乏症の患者全員にサプリメントによる3ヵ月間の治療を行ったところ、ほぼ全員の痛みが軽減したことが報告されました。
2004年 Mayo Clinic Proceedings誌
原因不明の筋肉痛や骨の痛みを持つ患者を調査した結果、ビタミンD欠乏レベルが高いことを示す報告が掲載されました。
2009年 Pain Medicine誌
ビタミンD欠乏症の腰痛患者は、ビタミンD欠乏症でない患者に比べて、より多くの鎮痛剤を投与する必要があることが明らかになりました。
2012年 Archives of Internal Medicine誌
ビタミンDの投与で、女性の月経時の痛みを著しく緩和することがイタリアの研究者により掲載されました。
【まとめ】ビタミンDを十分に摂取することが重要
ビタミンDは骨を丈夫にして、痛みをコントロールするために必要なホルモンです。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症を予防するためには、免疫力を高めることが重要だと考えられています。しかし、日本人のビタミンD不足は深刻で、約8割の方がビタミンD不足になっており、さらにその内の4割の方が欠乏症と言われています。ビタミンDを食事からは十分に摂取することは困難です。また、日光浴による合成を促すことも現代社会では難しいです。代替として脊柱管狭窄症等の腰痛にサプリメントを服用するなど手軽に対応できますが、副作用も考えられますので、服用前に専門医にご相談ください。
参考文献参照元
①Vitamin D deficiency and chronic low back pain in Saudi Arabia - 2003 - Saud Al Faraj, Khalaf Al Mutairi - Spine (Volume28, Issue2, P177-9)
②Vitamin D for Health: A Global Perspective - 2013 - Arash Hossein-nezhad, Michael F Holick - Mayo Clinic Proceedings (Volume88, Issue7, P720-55)
③Inadequate Vitamin D Levels Linked To High Use Of Narcotic Medication By Patients In Chronic Pain - 2009 - Mayo Clinic
④Italian Association of Clinical Endocrinologists (AME) and Italian Chapter of the American Association of Clinical Endocrinologists (AACE) Position Statement: Clinical Management of Vitamin D Deficiency in Adults - 2018 - Roberto Cesareo, Roberto Attanasio, Marco Caputo, Roberto Castello, Iacopo Chiodini, Alberto Falchetti, Rinaldo Guglielmi, Enrico Papini, Assunta Santonati, Alfredo Scillitani, Vincenzo Toscano, Vincenzo Triggiani, Fabio Vescini , Michele Zini, AME and Italian AACE Chapter - Nutrients (Volume10, Issue5, P546)
⑤VITAMIN D DEFICIENCY AND CHRONIC LOWER BACK PAIN IN LUMBAR DISC HERNIATED SUBJECTS - 2014 - N.D. Withanage, L.V. Athiththan, H. Peiris, S. Perera - University of Sri Jayewardenepura
⑥Hypovitaminosis D and Cervical Disk Herniation among Adults Undergoing Spine Surgery - 2013 - Geoffrey E Stoker, Jacob M Buchowski, Christopher T Chen, Han Jo Kim, Moon Soo Park, K Daniel Riew - Global Spine Journal (Volume3, Issue4, P231-6)
参考文献のリンク
①Vitamin D deficiency and chronic low back pain in Saudi Arabia
②Vitamin D for Health: A Global Perspective
③Inadequate Vitamin D Levels Linked To High Use Of Narcotic Medication By Patients In Chronic Pain
④Italian Association of Clinical Endocrinologists (AME) and Italian Chapter of the American Association of Clinical Endocrinologists (AACE) Position Statement: Clinical Management of Vitamin D Deficiency in Adults
⑤VITAMIN D DEFICIENCY AND CHRONIC LOWER BACK PAIN IN LUMBAR DISC HERNIATED SUBJECTS [PDF]
⑥Hypovitaminosis D and Cervical Disk Herniation among Adults Undergoing Spine Surgery
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。