概略

椎間板ヘルニアの後遺症として、痺れが残る場合があります。手術後、神経が治癒するのに時間がかかるため、一時的な症状が残る場合があります。また、必ずしも下肢痛を軽減するとは限りません。なにより、重症化して一度神経に傷が残ってしまうと回復することはありません。正しく椎間板ヘルニアを理解して、ご自身に合った適切な治療法を選択していただければと思います。


腰椎椎間板ヘルニア手術後に足の痛みが残る理由とは? 序論

目次

腰椎椎間板ヘルニアの手術をしたのに痛みが残るのはなぜ?

半年前に他院で腰椎後方除圧術を受けた後、症状の改善が見られなかった60代の男性患者様が当院を受診されました。患者様は「手術は成功していると言われたのに、なぜ足の症状が全く改善していなかったのでしょうか?」と納得できないご様子でした。ここ20年ほどで脊椎手術の信頼性は大幅に向上しましたが、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアで腰椎減圧手術を行った後、依然として足に痛みを感じる患者さんもおられます。今回は、腰椎椎間板ヘルニア手術後に痛みが続く理由についてお話したいと思います。


腰椎椎間板ヘルニアによる神経損傷の修復には時間を要す

術後、神経が治癒するのに時間がかかるため、一時的な症状が残る場合があります。身体の状態によっては数日から数週間かかることがあり、3ヵ月経っても痛みが残っている場合は自然に改善する可能性は低くなります。


椎間板ヘルニアの後遺症、しびれについて

脊髄を含む神経に大きな損傷がある場合は、椎間板ヘルニアの後遺症としてしびれが残る場合があります。一度神経に傷が残ってしまうと、回復することはありません。


腰椎椎間板ヘルニアの術後に痛みが続く原因

手術しても足の痛みが続く原因はいくつかあります。

誤った診断

医療技術が今ほど発達してなかった時代、術後の足の痛みのほとんどの原因は、術前の診断が間違っていたということでした。現在は術前の画像診断(MRI検査など)の進歩により誤診の可能性は低くなってきています。

痛みを引き起こす二重の問題

2つの異なる病変が痛みを引き起こしている可能性もあります。
例えば、椎間板ヘルニアの患者様が梨状筋症候群を患っている可能性があります。治療により患者様の痛みを一部改善することができますが、この場合は症状改善にリハビリも必要になります。

椎間孔狭窄症と脊柱管狭窄症

椎間孔狭窄症 (脊柱管の中にある神経が枝分かれして伸びた神経の通り道が狭くなること) と脊柱管狭窄症の両方を患っている場合です。
脊柱管狭窄症は悪くなっている部分を除去することで解消できますが、椎間孔狭窄症は施術して取り除くだけでは不十分な場合があります。この場合、椎間孔狭窄症に対応するために脊椎固定術が必要になる場合があります。

二次的な椎間板ヘルニア

手術後に発生するヘルニアについていくつかのケースがあります。

  • 破損した線維輪から髄核が漏れ続け、神経根の炎症が治まらない場合
    この場合は足の症状がさらに悪化することもあります。
  • 別の椎間板が破損し、神経根に突出する場合
    これは手術後数日から数年後に発生する可能性があります。
  • 手術後に痛みはなくなるが、しばらく経って痛みが再発する場合
    これは手術後2~7日で痛みが出ますが、時間経過とリハビリによって治まります。

手術中の神経損傷

ヘルニアへアプローチするため予期せず神経を傷つけてしまうことがあります。可能性として低いですが、術後にしびれが残ることもあります。

瘢痕組織(はんこんそしき)

これは稀なケースですが瘢痕組織による原因です。瘢痕組織は、傷が治癒するときに生じる結合組織のことで、術後に形成されます。周囲の組織に損傷を与えることありませんが、神経根の可動性が制限される可能性があります。瘢痕組織は6~12週間だけ成長し、その後は時間の経過とともに柔らかくなります。


NLC野中腰痛クリニックによる腰椎椎間板ヘルニアの治療実績

当院における腰椎椎間板ヘルニアの治療実績をご紹介します。腰部脊柱管狭窄症と併発するケースも多く、また坐骨神経痛などの症状もみられます。当院の腰椎椎間板ヘルニアの治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、6,358件(集計期間:2018年6月~2024年10月)

過去に他院さまにて椎間板ヘルニアの外科的治療をされましたが改善がみられない患者さまです。外科的治療の影響からか巨大なヘルニア性変化による疼痛(FBSS・脊椎術後疼痛症候群)を認めたため、ディスクシール治療(Discseel® Procedure)で症状の改善を図りました。


【まとめ】腰椎椎間板ヘルニア手術後に足の痛みが残る理由とは?

椎間板ヘルニアの治療成績は外科的手術の方が良いと言われています。しかし、多くの患者様が手術以外の治療法で大きく改善されていることも事実です。私個人の見解としてはお身体に負担が少ない方が良いと考えています。もちろん、外科的手術を受けた方が改善が見込める場合もあるため、医師にしっかりと相談し手術のメリットやリスクにご納得いただけたうえで治療法を選択されることをお勧めします。

腰椎椎間板ヘルニア手術後に足の痛みが残る理由とは? 結論

参考文献参照元

①腰椎後方除圧術: よりよい手術成績を得るためのわれわれの工夫 - 2014 - 金 景成, 井須 豊彦, 國保 倫子, 森本 大二郎, 岩本 直高, 千葉 泰弘, 菅原 淳, 小林 士郎, 森田 明夫 - 脳神経外科ジャーナル (23巻, 6号, P.468-475)
②Risk Factors for Early Recurrence After Transforaminal Endoscopic Lumbar Disc Decompression - 2019 - Chan Hong Park, Eun Soo Park, Sang Ho Lee, Kyung Kyu Lee, Yoon Kwang Kwon, Min Soo Kang, Shin Young Lee, Young Hwan Shin - Pain Physician (Volume22, Issue2, P133-138)
③Adjacent segment degeneration after single-level anterior cervical decompression and fusion: Disc space distraction and its impact on clinical outcomes - 2015 - Jia Li, Yongqian Li, Fanlong Kong, Di Zhang, Yingze Zhang, Yong Shen - Journal of Clinical Neuroscience (Volume22, Issue3, P566-9)
④Incidence and risk factors of adjacent segment disease following posterior decompression and instrumented fusion for degenerative lumbar disorders - 2017 - Hui Wang, Lei Ma, Dalong Yang, Tao Wang, Sen Liu, Sidong Yang, Wenyuan Ding - Medicine(Baltimore). (Volume96, Issue5)
⑤Clinical and Radiological Outcomes of Microscopic Lumbar Foraminal Decompression: A Pilot Analysis of Possible Risk Factors for Restenosis - 2018 - Shoichi Haimoto, Yusuke Nishimura, Masahito Hara, Yasuhiro Nakajima, Yu Yamamoto, Howard J Ginsberg, Toshihiko Wakabayashi - Neurologia medico-chirurgica[Tokyo] (Volume58, Issue1, P49-58)

参考文献のリンク

腰椎後方除圧術: よりよい手術成績を得るためのわれわれの工夫
Risk Factors for Early Recurrence After Transforaminal Endoscopic Lumbar Disc Decompression
Adjacent segment degeneration after single-level anterior cervical decompression and fusion: Disc space distraction and its impact on clinical outcomes
Incidence and risk factors of adjacent segment disease following posterior decompression and instrumented fusion for degenerative lumbar disorders
Clinical and Radiological Outcomes of Microscopic Lumbar Foraminal Decompression: A Pilot Analysis of Possible Risk Factors for Restenosis

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任


腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。