概略
更年期のホルモン変化やその他の要因が、50歳以上の女性の腰痛の原因となる可能性があります。まずは整形外科を受診し、椎間板ヘルニアや腰椎すべり症などの疾患との合併症の可能性がないかを確かめる必要があります。
はじめに
3年前から腰痛に悩んでおられる50代前半の女性患者様から「若い頃からずっと身体のケアをしていましたが、50歳を過ぎてから腰が痛くなってきました。これは年齢のせいでしょうか?」と聞かれました。MRI検査で腰椎の椎間板変性が確認され、腰の周りの筋肉も少々弱っていた以外に異常が見られませんでした。では、患者様の腰痛の原因は本当に年齢なのでしょうか?本日は、この疑問に関して出来るだけ分かりやすくお答えしたいと思います。
結論
今回のケースでは、年齢が腰痛の原因の可能性が高いと思います。より正確に言えば、年齢を重ねることにより身体に様々な変化が起こったことが起因したのではないかと考えられます。特に更年期の最初の15年間は、女性の腰痛が発症しやすいと研究により明らかにされています。
更年期障害と腰痛の関係
加齢により女性ホルモンの分泌が急激に低下し、自律神経の乱れと血行不良を招きます。その結果、お身体が腰痛を引き起こす準備が整ってしまいます。
血行不良
血行不良により腰椎から椎間板への栄養の供給ができなくなることで、腰痛の原因である椎間板変性を引き起こします。また同時に、背骨や関節を支える筋力を低下させます。
自律神経失調
自律神経が不安定になると、痛みに対して敏感になると考えられています。今まで平気だった動きでも、痛みを感じるのは自律神経失調が原因です。
研究報告
北米更年期学会(NAMS)の機関誌「Menopause」に掲載された新しい研究によると、エストロゲン欠乏が椎間板変性に関与すること、またホルモン療法が更年期以降の女性の腰椎椎間板に有効であることを指摘する証拠が得られました。この研究は2013年6月から2016年10月までの期間において、腰痛で入院した女性1,566人と男性1,382人を対象とした椎間板の比較調査を実施しました。その結果……
- 若い男性は、閉経前の女性よりも椎間板変性を引き起こしやすい。
- 閉経後の女性は、閉経前および閉経前後の女性と比較して、男性よりも重度の椎間板変性を引き起こす傾向が顕著である。
以上のことが判明しました。
まとめ
更年期の腰痛原因は、腰椎椎間板変性と関連しているので、まずは整形外科を受診しましょう。椎間板ヘルニアや腰椎すべり症などの疾患との合併症の可能性がないか確かめる必要があります。もし背骨の疾患が腰痛の原因ではないことが明らかになった場合、専門医と相談した上で、ホルモン療法を検討するのもいいかもしれません。
参考文献参照元
①Menopause causes vertebral endplate degeneration and decrease in nutrient diffusion to the intervertebral discs - 2011 - Yi-Xiang J Wang, James F Griffith - Medical Hypotheses (VOLUME 77, ISSUE 1, P18-20)
②Effect of Menopause on Lumbar Disk Degeneration: Potential Etiology - 2010 - Yi-Xiang J Wang, James F Griffith - Radiology (VOLUME 257, ISSUE 2, P318-20)
③Increased low back pain prevalence in females than in males after menopause age: evidences based on synthetic literature review - 2016 - Yì Xiáng J. Wáng, Jùn-Qīng Wáng, Zoltán Káplár - Quantitative Imaging in Medicine and Surgery (VOLUME 6, ISSUE 2, P199-206)
④Postmenopausal Chinese women show accelerated lumbar disc degeneration compared with Chinese men - 2015 - Yi Xiang J Wang - Journal of Orthopaedic Translation (VOLUME 3, ISSUE 4, P205-211)
参考文献のリンク
①Menopause causes vertebral endplate degeneration and decrease in nutrient diffusion to the intervertebral discs
②Effect of Menopause on Lumbar Disk Degeneration: Potential Etiology
③Increased low back pain prevalence in females than in males after menopause age: evidences based on synthetic literature review
④Postmenopausal Chinese women show accelerated lumbar disc degeneration compared with Chinese men
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任