概略
腰痛や坐骨神経痛には、遺伝が関与していることが最新の研究から示されています。特に椎間板変性症や椎間板ヘルニアに関しては、家族歴がある人の発症リスクが通常の約5倍高いことが複数の調査で確認されています。
しかし遺伝的要因が全てではなく、腰痛の大部分は環境要因が大きく関与しており、適度な運動が予防に役立つこともわかっています。家族に腰痛の歴史がある場合でも、運動習慣を取り入れることで予防効果が期待されます。
はじめに
10代前半の若年者で、腰痛や坐骨神経痛を訴える方もいれば、反対に80代の高齢者でまったく腰痛などと無縁の方もおられます。先日患者様より、『家族皆が同じ様に、若い頃から腰痛や坐骨神経痛をもっているのですが遺伝は関係あるのでしょうか?』とご質問を頂きましたので、最新の論文結果をご紹介しながら皆様にお伝えしたいと思います。
腰痛の遺伝的要因と環境的要因
Annals of Medicine
坐骨神経痛における遺伝的要因と環境的要因の相対的役割を、9365組の同性の成人ペアからなる全国規模のフィンランド双生児パネルで研究されました。14年間の追跡調査により、2220人が医師による坐骨神経痛の診断を受け、304人が坐骨神経痛の診断で入院したことがわかりました。
報告された坐骨神経痛を罹患したペアの割合は、一卵性双生児で17.7%、二卵性双生児で12.0%であり、坐骨神経痛が原因で入院した者では4.6%と1.9%でした。推定遺伝率は、坐骨神経痛の報告者では20.8%、入院者では10.6%でした。その結果、坐骨神経痛の病因の80%以上、入院患者の場合は90%以上が環境的要因であることがわかりました。
The Journal of Bone and Joint Surgery
21歳未満で腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた患者63名の両親を調査し、家族内で同じ病気が見られるかどうかを調べました。対照群として、脊椎以外の病気を持つ63名の患者の両親も同じ質問を受けました。その結果、腰椎椎間板ヘルニアを持つ患者の32%が家族歴がある一方で、対照群では7%でした。
つまり、家族歴がある人は、21歳未満で腰椎椎間板ヘルニアを発症するリスクが約5倍高いことがわかり、病気が家族に集まりやすいことが示されました。
Spine (Phila Pa 1976).
1976年から1990年の間に富山医科薬科大学で手術を受けた18歳以下の腰椎椎間板ヘルニア患者40名の家族(兄弟姉妹と両親)を調査し、腰椎椎間板ヘルニアの発症率を調べました。対照として、同じ期間に脊椎以外の病気で入院した120名の患者の家族も同様に調査されました。また、富山県内の小・中・高校に通う75,237人を対象に約3年4ヶ月間、腰椎椎間板ヘルニアの発生率を調査しました。その結果、18歳以下の患者では腰椎椎間板ヘルニアが家族内で集まる傾向があり、対照群と比べるとオッズ比は5.61倍であることがわかりました。
つまり、18歳以下の患者には遺伝的な要因が関係している可能性があると示唆されました。
NLC野中腰痛クリニックによる坐骨神経痛の治療実績
当院における坐骨神経痛の治療実績をご紹介します。坐骨神経痛は腰痛疾患をお持ちの幅広い年齢層の患者様に見られる症状です。当院の坐骨神経痛の治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、6,358件(集計期間:2018年6月~2024年10月)
令和元年に当クリニックで脊柱管狭窄症に対してディスクシール治療(Discseel® Procedure)を行い、症状がほぼ消失された患者さまです。しかし、趣味であるゴルフを再開されると軽度の坐骨神経痛が出現する状態になられたため、再度ディスクシール治療(Discseel® Procedure)を行う事による症状の改善を図りました。治療後は約2時間ベッドでお休みいただき、ご帰宅していただきました。
まとめ
椎間板変性症や椎間板ヘルニアには家族性素因が大きい事は各種論文からも共通認識となっております。つまり関係があります。※1-3
また面白い事に腰痛に関しては、環境因子(運動等)によって悪化するのではなく、むしろ適度な運動は椎間板変性症の進行を遅らせ腰痛の発症予防につながると報告されています。※4-6
腰痛や坐骨神経痛は、遺伝が関与していますが、ただし遺伝がすべてではありません。また適度な運動は腰痛を悪化させるのではなく、むしろ腰痛予防につながることが示唆されています。みなさま、腰痛や坐骨神経痛、脊椎疾患の家系がおありでも、適度な運動を心がけて、予防に努めていただければと思います。また当院では、腰痛および坐骨神経痛等の神経障害性疼痛に対して、5種類の日帰り治療で患者様に満足していただけるよう診療を行っております。お悩みの患者様がおられましたら、お気軽にお電話やメールでご相談ください。
参考文献参照元
*1 Heikkila JL,koskenvuo M,Heliovaara M,et al:Genetic and environmental factors in sciatica.Evidence from a nationwide panel of 9365 adult twin pairs.Ann Med 21:393-398,1989.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2605032/
*2 Varlotta GP,Brown MD,Kelsey JL,et al : Familial Predisposition for herniation of a lumbar disc in patients who are less than twenty-one years old.J Bone Joint Surg Am73:124-128 1991.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1824705/
*3 Matui H. Terahata N,Tsuji H,et al : Familial predisposition and clustering for juvenile lumbar disc herniation.Spine 17:1323-1328,1992.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1462208/
*4 Adams MA,Dolan P: Spine biomechanics.J Biomech 38:1972-1983,2005.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15936025/
*5 Adams MA, Freeman BJ,Morrison HP,et al : Mechanical initiation of intervertebral disc degeneration.Spine 25:1625-1636,2000.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10870137/
*6 Videman T,Levalahti E, Battie MC:The effects of anthropometrics,Lifting strength,and physical activities in disc degeneration .Spine 32:1406-1413,2007.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17545908/
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。
坐骨神経痛
坐骨神経痛とは、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などを原因とし、腰から下部の臀部や脚に痛みやしびれを感じる症状です。