患者様の情報
40代 女性
疾患・症状
経過
2024年5月に都内の腰痛クリニックで日帰り治療(ディスコゲルのインプラント治療)を受けられましたが、治療後より下肢に激痛が出現し歩けない状態となられました。自宅近くの黒部市民病院を受診されましたが、治療したクリニックでないとわからないと断られ、治療を受けられたクリニックに連絡するも対応できないと断られてしまった為、本日当院を受診されています。
疼痛スケール
VAS Score | 現在 |
---|---|
腰の痛み | 5点 |
下肢の痛み | 10点 安静時にも疼痛があり車椅子での移動 |
しびれ | 0点 |
臀部の痛み | 3点 |
(患者様に痛みを10段階で評価してもらい、0点は痛みがない状態を意味します)
検査
本日のMRI写真です。椎間板の容量は少なくなっており、脊柱管狭窄症の合併を認めます。第4腰椎と第5腰椎にディスコゲルが投与されたと推察されますが、脊髄に沿ってディスコゲル成分が落ち込んでいるように見えます。
診察
左下肢の坐骨神経領域の激しい神経痛と左の股関節痛を伴っています。神経反射は正常でしたが、左下肢では筋力の低下を認めました。
結果
ディスコゲルの主成分はエチルアルコールです。エチルアルコールにはタンパク凝集作用がありますので、椎間板内に投与することで椎間板を科学的に融解し、椎間板内の圧力を下げることができます。タンパクを凝集されて組織を破壊するため、神経にまで作用すると今回のように神経破壊を引き起こしてしまいます。
患者様には、後遺症として神経障害が残る可能性をご説明し、少しでも障害を軽減するためにステロイドの内服治療を開始いたしました。状況次第ですが、幹細胞関連の治療やSCS(脊髄神経刺激療法)などの積極的な治療も視野に入ります。
まとめ
ディスコゲル(セルゲル法、PIDT法、PIDD法)を椎間板に投与する場合には、椎間板の容量が保たれていて、椎間板に損傷がないことを造影検査などで確認することが必須です。この患者様の場合MRI検査で椎間板の容量が明らかに低下しておりますので、そもそも本症例でディスコゲル(セルゲル法、PIDT法、PIDD法)を使用することは禁忌であったと考えます。ディスコゲルは主に欧州で行われておりますが、海外の医療機関でも椎間板の容量が減少している場合には禁忌とされており、各医療機関のホームページにも記載されているほど常識になっています。なぜ治療を行ったのかは不明ですが、患者様によると検査もなく若い先生が治療を行ったとのことでしたので、故意に治療を行ったのではなく、経験不足であった可能性を信じたいですが、医療訴訟となれば医療側が100%敗訴するレベルです。
院長の一言
本日の外来では本当に驚きました。以前、東京で開業している友人と食事をした際、東京では若い先生が雇われ院長をしているのでノルマがきついらしいよと言っておりました。当時は「医療にノルマ?」と思っていましたが、さもありなんと考えさせられた1日でした。
さて、昨日は横浜スタジアムにタイガースの応援に行っておりましたが、残念ながら連勝がストップしてしまいました。まだまだペナントレースは続きますので、気を入れなおして応援したいと思います。
そして横浜スタジアムは甲子園よりかなり綺麗でした。
治療法
ディスクシール治療(Discseel® Procedure)
治療期間
日帰り
治療費用
1,320,000円~1,650,000円(税込)
リスク・副作用
治療後2週間程度は一時的に症状が悪化する可能性があります。ごく稀に椎間板の容量が増えたことによって周りの筋肉・関節や靭帯などの広がりにより筋肉痛や腰の違和感が出現することもあります。
この記事の著者
医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行
2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは背骨にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなる疾患です。腰痛、足の神経障害や歩行困難などの症状を引き起こします。
坐骨神経痛
坐骨神経痛とは、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などを原因とし、腰から下部の臀部や脚に痛みやしびれを感じる症状です。