概略

糖尿病は坐骨神経痛を引き起しません。糖尿病が原因の糖尿病性神経障害は、坐骨神経痛の痛みによく似ていますが全く異なる疾患です。糖尿病性神経障害は全身に痺れや痛みを引き起こすのに対し、坐骨神経痛は腰から片側の下肢に起こります。


坐骨神経痛って糖尿病と関係あるの? 序論

目次

【序論】坐骨神経痛と糖尿病の関係について

先日、糖尿病を患っておられる60代の男性患者様を診察いたしました。坐骨神経痛を訴えられての受診でしたが、腰椎に異常が見られないので、「感じられている痛みは別の疾患との合併症の可能性が高いです」とお伝えしました。患者様は大変驚かれたようで「もしかして坐骨神経痛は糖尿病が原因ですか?」と尋ねられました。
今日は、坐骨神経痛と糖尿病の関係についてお話ししたいと思います。


坐骨神経痛によく似た症状の糖尿病性神経障害

糖尿病は坐骨神経痛を引き起しません。
ただし、糖尿病性神経障害を引き起こします。糖尿病性神経障害の症状は、糖尿病の合併症に伴う痛みやしびれで坐骨神経痛に非常によく似ております。この2つの疾患を混同してしまうのも仕方ないことですが、実は明確な違いがあります。


坐骨神経痛と糖尿病性神経障害の違い

坐骨神経痛と糖尿病性神経障害は、どちらも足腰に痛みとピリピリとした痺れを引き起こします。そして、どちらも身体の強さや体幹に影響します。しかし、痛みの原因や場所、症状の始まり方が異なります。

原因

糖尿病性神経障害

糖尿病は、血液中の糖分の調節がうまくいかなくなることで発症する病気です。血糖値が高い状態が長く続くと、神経と神経のまわりの血管が正常に働かなくなり、足腰に痛みやしびれといった坐骨神経痛によく似た症状を引き起こします。

坐骨神経痛

坐骨神経は、身体の中で最も大きく長い神経です。坐骨神経が傷つくと、坐骨神経が通っている部分(坐骨神経領域と言います)に痛みが生じます。全身の神経が損傷する糖尿病性神経障害とは異なり、坐骨神経痛は足腰に限定され、多くの場合は、身体の片側だけに症状が出ます。坐骨神経痛の原因として、骨棘、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアの3つが一般的とされています。

見分ける方法

坐骨神経痛と糖尿病性神経障害は以下の違いで見分けることができます。

  • 坐骨神経痛は、糖尿病性神経障害のように徐々にではなく、突然にやってきます。
  • 坐骨神経痛は、坐骨神経領域に限定して発症します。
  • 坐骨神経痛は、通常午前中に悪化しますが、糖尿病性神経障害の痛みは時間帯を問いません。
  • 坐骨神経痛は、腰から始まり下へ下へ進行するのに対し、糖尿病性神経障害の痛みはつま先など末端から始まります。

治療法

糖尿病性神経障害

糖尿病性神経障害には治療法がありません。
しかし、糖尿病治療により、症状を緩和し、機能を回復させ、神経の損傷の進行を遅らせることができます。これは主に、血糖値と食事を管理し、痛み止めを服用し、運動することで緩和されます。
※当院では糖尿病の治療は行っておりません。

坐骨神経痛

坐骨神経痛は、抗炎症剤、筋弛緩剤、ステロイド、理学療法、そして場合によっては手術などの治療が行われます。外科的手術のリスクを避けたい方には、当院のようにお身体への負担の少ない日帰り治療などのオプションがあります。


NLC野中腰痛クリニックによる坐骨神経痛の治療実績

当院における坐骨神経痛の治療実績をご紹介します。坐骨神経痛は腰痛疾患をお持ちの幅広い年齢層の患者様に見られる症状です。当院の坐骨神経痛の治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、5,638件(集計期間:2018年6月~2024年3月)

ご高齢ですが現場での仕事をしたいとのご希望が強くあられる患者さまです。椎間板が潰れ始めており、腰椎が前方に滑っていることが見て取れるため、DST(ディスクシール治療)で椎間板を治療し、本来の機能を改善させることで下肢の神経症状(坐骨神経痛)の改善を図ります。


【まとめ】坐骨神経痛と糖尿病の関係について

坐骨神経痛と糖尿病性神経障害は非常によく似ていますが、全く異なる疾患です。それぞれの症状は、別々の理由によって引き起こされ、異なる治療法が必要です。不安やお悩みを抱えておられる方は、どちらの症状なのかを判断するためにも医師の診察を受けてみましょう

坐骨神経痛って糖尿病と関係あるの? 結論

参考文献参照元

①Prevalence and Characteristics of Painful Diabetic Neuropathy in a Large Community-Based Diabetic Population in the U.K. - 2011 - Caroline A Abbott, Rayaz A Malik, Ernest R E van Ross, Jai Kulkarni, Andrew J M Boulton - Diabetes Care (VOLUME 34, ISSUE 10, P2220-2224)
②特集:歩行維持を目指したフットケア~運動と栄養・薬物療法の融合「様々な合併症を有する高齢者のリハビリにおける漢方薬の活用」 - 2018 - 伊藤 友一 - 日本フットケア学会雑誌 (16巻 4号 P182-187)
③高齢糖尿病患者の特徴と診療のあり方 - 1992 - 赤澤 好温, 大石 まり子, 田代 眞一 - 医療 (46巻 7号 P526-528)
④Peripheral Arterial Disease in People With Diabetes - 2003 - American Diabetes Association - REVIEWS / COMMENTARIES / POSITION STATEMENTS (VOLUME 26, ISSUE 12)
⑤Diabetic polyneuropathy and pain, prevalence, and patient characteristics: a cross-sectional questionnaire study of 5,514 patients with recently diagnosed type 2 diabetes - 2020 - Sandra Sif Gylfadottir, Diana Hedevang Christensen, Sia Kromann Nicolaisen, Henning Andersen, Brian Christopher Callaghan, Mustapha Itani, Karolina Snopek Khan, Alexander Gramm Kristensen, Jens Steen Nielsen, Søren Hein Sindrup, Niels Trolle Andersen, Troels Staehelin Jensen, Reimar Wernich Thomsen, Nanna Brix Finnerup  - PAIN (VOLUME 161, ISSUE 3, P574-583)
⑥Vascular Complications of Diabetes  - 2016 - Joshua A. Beckman, Mark A. Creager - Circulation Research (VOLUME 118, ISSUE 11, P1771–1785)

参考文献のリンク

Prevalence and Characteristics of Painful Diabetic Neuropathy in a Large Community-Based Diabetic Population in the U.K.
特集:歩行維持を目指したフットケア~運動と栄養・薬物療法の融合「様々な合併症を有する高齢者のリハビリにおける漢方薬の活用」
高齢糖尿病患者の特徴と診療のあり方
Peripheral Arterial Disease in People With Diabetes
Diabetic polyneuropathy and pain, prevalence, and patient characteristics: a cross-sectional questionnaire study of 5,514 patients with recently diagnosed type 2 diabetes
Vascular Complications of Diabetes

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任


坐骨神経痛

坐骨神経痛

坐骨神経痛とは、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などを原因とし、腰から下部の臀部や脚に痛みやしびれを感じる症状です。