概略

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板が潰れて骨と骨の間から飛び出し、神経を圧迫したり炎症を引き起こしたりする腰の病気です。結果として腰痛や足の痛み、痺れなどの症状が発現しますが、この飛び出たヘルニアのサイズは、症状の重症度と相関しません。治療法には、保存療法や外科的手術、椎間板治療などがあります。


軽い腰椎椎間板ヘルニアと診断されたのに症状がひどいのはなぜなのか? 序論

目次

軽度の腰椎椎間板ヘルニアなのに我慢できないほどの痛みが続く

先日、50代の男性患者様が当クリニックへ来院されました。近所の病院で軽い椎間板ヘルニア(膨隆型)と診断され、医師からも「心配することはない」と言われていました。しかし腰痛と坐骨神経痛がなかなか収まらず、その患者様は「なぜ、心配のないはずの軽い椎間板ヘルニアなのに、我慢できないほどの痛みが続いているのでしょうか?」と疑問を呈されていました。
本日は、この質問について分かりやすくお答えしたいと思います。


腰椎椎間板ヘルニアの大きさは症状の深刻さと無関係

椎間板ヘルニアの大きさは症状の激しさと関係ありません。椎間板ヘルニアによって引き起こされた炎症や神経への圧迫が、症状の深刻さに影響があると考えられています。


腰椎椎間板ヘルニア(膨隆型)について

腰椎椎間板ヘルニア(膨隆型)とは

椎間板ヘルニアでも膨隆型は、神経に触っていない小さなヘルニアのことで、椎間板の突出、脱出、遊離が発生する前段階になります。本格的な椎間板ヘルニア(脱出型)と区別されることも多く、膨隆型は年齢的な変化で誰にでも起こりえる疾患となります。特に腰椎は上半身を支えているため、腰の椎間板が加齢や外傷により変性し、膨隆型が起こりやすいと考えられます。

腰椎椎間板ヘルニア(膨隆型)は問題になるのか?

「椎間板膨隆は憂慮すべき」ではありますが、必ずしも対処が必要なわけではありません。MRI検査で、無症状の椎間板膨隆が偶然に発見されることがよくあります。1994年に発表された研究でも、腰痛の自覚がない人の52%がMRI検査で椎間板が膨らんでいることが報告されています。椎間板膨隆が症状を引き起こしていない場合は、椎間板内部にある線維輪の損傷の可能性が低いので心配はいりません。しかし、悪化しないように生活習慣の改善や身体のケアが必要になってきます。反対に痛みやしびれ等の症状を引き起こしている椎間板膨隆の場合には、線維輪に亀裂が入っており、椎間板の髄核が漏れ出ている可能性が高いので対処が必要になります。


NLC野中腰痛クリニックによる腰椎椎間板ヘルニアの治療実績

当院における腰椎椎間板ヘルニアの治療実績をご紹介します。腰部脊柱管狭窄症と併発するケースも多く、また坐骨神経痛などの症状もみられます。当院の腰椎椎間板ヘルニアの治療実績はこちらをご覧ください。
NLC野中腰痛クリニックの日帰り腰痛治療の実績は、5,638件(集計期間:2018年6月~2024年3月)

過去に他院さまにて椎間板ヘルニアの外科的治療をされましたが改善がみられない患者さまです。外科的治療の影響からか巨大なヘルニア性変化による疼痛(FBSS・脊椎術後疼痛症候群)を認めたため、DST(ディスクシール治療)で症状の改善を図りました。


【まとめ】軽い腰椎椎間板ヘルニアと診断されたのに症状がひどいのはなぜなのか?

椎間板ヘルニア(膨隆型)=軽い椎間板ヘルニアの場合、症状が自然に軽快する場合には、腰に負担のかからない様に注意する程度で良いと考えますが、症状が自然に改善せず持続するような場合には保存的治療(内服治療やリハビリ)、椎間板治療(再生治療を含む)、外科的手術を含めて検討すべきです。基本的には、保存的治療が優先されますが、改善が無い場合には椎間板治療や外科的手術の順番で考えるべきだと思います。いずれにせよ、症状が持続している場合には、医師の判断を仰ぎ、どのようなアプローチで椎間板ヘルニア(膨隆型)と向き合うかをよく話し合う必要があると考えます。

軽い腰椎椎間板ヘルニアと診断されたのに症状がひどいのはなぜなのか? 結論

参考文献参照元

①Magnetic Resonance Imaging of the Lumbar Spine in People without Back Pain - 1994 - Maureen C. Jensen, Michael N. Brant-Zawadzki, Nancy Obuchowski, Michael T. Modic, Dennis Malkasian, and Jeffrey S. Ross - New England Journal of Medicine (VOLUME 331, ISSUE 2, P69-74)
②椎間板の形成と恒常性の維持 - 2020 - 三浦 重徳, 宿南 知佐, 東京大学生産技術研究所, 広島大学大学院医系科学研究科 - 整形・災害外科 (63巻12号)
③Intervertebral Disc: Anatomy-Physiology-Pathophysiology-Treatment - 2008 - P Prithvi Raj - Pain Practice (VOLUME 8, ISSUE 1, P18-44)
④The probability of spontaneous regression of lumbar herniated disc: a systematic review - 2015 - Chun-Chieh Chiu, Tai-Yuan Chuang, Kwang-Hwa Chang, Chien-Hua Wu, Po-Wei Lin, Wen-Yen Hsu - Clinical Rehabilitation (VOLUME 29, ISSUE 2, P184-95)
⑤The Inflammatory Properties of Contained and Non-contained Lumbar Disc Herniation - 1997 - O P Nygaard, S I Mellgren, B Osterud  - Spine (VOLUME 22, ISSUE 21, P2484-8)

参考文献のリンク

Magnetic Resonance Imaging of the Lumbar Spine in People without Back Pain
椎間板の形成と恒常性の維持
Intervertebral Disc: Anatomy-Physiology-Pathophysiology-Treatment
The probability of spontaneous regression of lumbar herniated disc: a systematic review
The Inflammatory Properties of Contained and Non-contained Lumbar Disc Herniation

この記事の著者

医療法人蒼優会理事長・NLC野中腰痛クリニック院長:野中康行

医療法人蒼優会 理事長
NLC野中腰痛クリニック 院長野中 康行

2002年:川崎医科大学卒業・医師免許取得、2006年:神鋼加古川病院(現加古川中央市民病院)勤務、2011年:医療法人青心会郡山青藍病院(麻酔科・腰痛外来・救急科)勤務・医療法人青心会理事就任、2018年:ILC国際腰痛クリニック開設、2020年:医療法人康俊会開設・理事長就任、2021年:NLC野中腰痛クリニック開設、2023年:医療法人蒼優会開設・理事長就任


腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアとは背骨の間にある椎間板(ついかんばん)が外に飛び出し神経を圧迫する疾患です。坐骨神経痛、ぎっくり腰などの症状を引き起こします。